約 339,741 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7737.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 西暦2012年 地球――某国 アサシンの隠れ家 「デズモンド、起きて」 「んっ……」 デッキチェアーに横になっていた男性が閉じていた瞼を開ける。 ぼやけていた視界が次第にはっきりと見えてくる、目の前には自分を起こしてくれた金髪の女性が立っていた。 その横で、パソコンのディスプレイを見つめていた女性がうれしそうに声を上げた。 「おどろいたわ! トリステイン? 魔法使い達の学校だなんて、まるでファンタジーの世界じゃない!」 「デズモンド、君のご先祖はずいぶんと波乱の人生を送ってきたようだな」 眼鏡をかけた男性が、椅子から立ち上がり、こちらへ近づいてきた。 「ショーン、茶化さないで、レベッカも」 「なぁ、ルーシー、どうすればいい? このままエツィオと同調を続けるのか? まるでこれじゃ、ジャパンのアニメじゃないか、なんだか訳がわからなくなってきたぞ?」 デズモンド、と呼ばれた男性が小さく頭を振りながら金髪の女性に尋ねる。 もはやわけがわからない。いつも通り『アニムス』を使い、先祖であるエツィオと同調していたら、いつの間にかファンタジーで異世界である。 ルーシーと呼ばれた女性がデズモンドの肩に手を置いた。 「だから起こしたの、この頃のエツィオと同調するのは危険よ……アルタイルの時を覚えてる? エデンの果実に近いほどあなたの身体が拒否反応を起こすことを」 「あぁ、確か同調率がどうとか言ってたな」 「そうよ、この記憶を辿るにはあなたはエツィオと同調しきっていないの」 「同調しきっていないって……今まで順調だったぞ? この先どうするんだ?」 「……あのルイズって女の子とのキスを覚えてる? あの子は契約って言ってたけど」 「あぁあれか、子供は趣味じゃないが、久しぶりに胸がグッときたよ、これがジャパンのMOEって奴なのかな?」 「……それは置いておいて、あのあとエツィオに刻まれたルーン、あれが問題なのよ」 ルーシーはレベッカと呼ばれた女性の横に立つと、パソコンのディスプレイをデズモンドに見せた。 「あのルーンが刻まれてから、エツィオの身体能力が全盛期のそれを大きく上回ったの、この数値は異常よ」 「……といっても、この画面をみても俺にはピンとこないんだけどな」 デズモンドは肩を竦める。ルーシーは一つ小さくため息をつくと説明を始めた。 「元々エツィオは『最強のアサシン』よ、その身体能力は計り知れないわ、 だからあなたの身体を馴らしていくために、誕生の瞬間からエツィオと同調させてきたの、流入現象をスムーズに利用するためにもね」 「なるほど、だから赤ん坊から、それで? なにが問題なんだ?」 「エツィオがいきなり全盛期以上の身体能力を得てしまうとなると、あなたも精神崩壊は免れないわよ」 「16号のようにか」 「それだけじゃないぞ、デズモンド」 ショーンと呼ばれた男が、やれやれといった風に肩を竦める。 「15世紀のイタリアなら、情報提供ができるが……相手が異世界じゃな……さすがの僕もお手上げだ」 「それじゃ、この先どうするんだ? 今ギーシュってガキとやりあってる途中なんだが……」 「そこは大丈夫よ、エツィオは二年後に再びロレンツォの前に姿を現しているの、おそらく無事に帰還できたんだわ、 今回は時間もないし……そこから同調を再開させるわね、残念ながらこの世界のことは後回しよ」 「堅いことを言うなよ、と言いたいところだけど、僕らにはあまり時間も余裕も残されていないのが現実だ」 残念そうにショーンが呟く、デズモンドが小さく笑いながらアニムスに腰かけた。 「異世界旅行か……アニムスにはあまりお世話にはなりたくないが、テンプル騎士団との戦いが終わってからなら、この頃のエツィオと同調するのも悪くはないかもな」 「その時はぜひ、その世界に行ける方法を見つけ出してくれよ、デズモンド」 「あぁ、是非とも見つけたいものだな」 二人の様子を見て、ルーシーが呆れたように呟いた。 「男の人ってどうしてこうかしらね? レベッカ」 「さぁ? ロマンってやつじゃない? まぁ、わからなくもないけどね、それじゃデズモンド、横になって、始めるわよ」 「わかった、……エツィオには悪いが、俺たちは一足先にフィレンツェ……地球に帰らせてもらうか」 デズモンドが再びアニムスに横になる。 パソコンのデスクトップを見つめ、ルーシーが小さく呟いた。 「差し詰め、ここの記憶はLost sequence(――失われた場面)ってところかしらね」 同調を開始し、アニムスの世界に立ったデズモンドが呟く。 「あのルイズって女の子……似たような奴がどっかにいたような気がするんだよな……」 「そう? そんな子いたかしら?」 やがて一人の人物が該当したのか、デズモンドが両手を打つ。 「……あぁそうだ思い出した! エルサレムの管区長! マリクだ!」 「あぁ、彼、最後辺りとかすごかったわね、彼女もいつかあんな風になるのかしら?」 「ははっ、それは見ものだな」 想像したのかデズモンドが笑みを漏らす。 やがて急速に意識がアニムスに呑みこまれるのを感じた。 デズモンドの前に15世紀のイタリア、フィレンツェの街並みが再現されていく。 アニムスの機械的なアナウンスが聞こえてきた。 ――記憶を早送りし、次の場面に移ります―― 「驚いたな……」 思わず感嘆の呟きを洩らす。まるで粘土の塊を貫いたような感触。 エツィオが突き立てたアサシンブレードはゴーレムの首関節を捉え、深々と貫いていた。 青銅製のゴーレムを貫いてなお、アサシンブレードは折れることなく貫通し、地面にまで突き刺さっていた。 アサシンブレードを引き抜き、収納する、同時にルーンの輝きが消える。 周囲の人間の目にはエツィオがただ、ゴーレムを押し倒しただけと映っているだろう。 「ッ!?」 首を貫かれながらも動き出したゴーレムに、エツィオはあわててその場から飛び退く。 忘れていた、相手は『魔法』で動いているのだ、アサシンブレードでの一撃では致命傷足り得ない。 せめて剣があればよいのだが、フィレンツェでの逃走劇で失ってしまっている。 小さく舌打ちし策を練る、人間相手なら先ほどの一撃で即死させる事が出来るが、魔法で動くゴーレムには微々たるダメージを与えるだけのようだ。 「押し倒すだけかい? それでは僕のゴーレムは壊せないよ?」 ギーシュは余裕の笑みを浮かべている。 ゴーレムは立ち上がると、再びエツィオに向かい突進してきた。 「これは失礼、レディをいきなり押し倒すなんて紳士のすることじゃないな」 軽口を叩きながらエツィオが迎え撃つ。一撃で仕留めることこそ出来ないが、通じないわけではない。 放たれた右ストレートを払いのけ、今度はこめかみにアサシンブレードを叩きこむ。 ぐらりと体勢を崩したゴーレムの身体に、エツィオは次々アサシンブレードを繰り出した。 青銅のゴーレムを貫いているとは思えないほど柔らかい感触が伝わってくる。 目にもとまらぬアサシンブレードの刺突がゴーレムの身体を貫いていく。 最後の仕上げと、ゴーレムの首に両手を当て、二本のブレードを交差させ掻っ切った。 元々刺突用として造られているアサシンブレードが、まるで粘土のように青銅のゴーレムを切り裂いた。 べろん、と切断された首がだらしなく垂れ下がり、ふらふらと倒れこむ。 どしゃり、と音を立て青銅のゴーレムが地に付した。 「な……な……」 「……まったく、なんてタフなご婦人だ」 エツィオは手のひらを叩きながら、苦笑する。 ギーシュは目の前で起こったことが信じられないといった様子でうめき声を上げた。 彼が何をしたのか、早すぎて何もわからなかった。 見ればゴーレムにはなにかで刺突された痕が無数に残っている。 首元に残る、鋭利な刃物で切り裂かれたような痕が痛々しい。 「なっ! なにをしたんだ!」 「さあ? なんだろうな」 エツィオが悠然とギーシュに向かい歩を進めていく。 マントに隠れた左手から鈍く光る短剣が覗いている。 おそらくはあれでゴーレムを滅多刺しにしたのだろう。 ギーシュの顔がみるみる青くなっていく、これ以上接近を許したら、自分もゴーレムと同じ目に遭ってしまう! ギーシュは慌てて薔薇を振った。花びらが舞い、新たなゴーレムが六体現れる。 そのゴーレムの手にはそれぞれ槍や、剣、斧などの武器が握られていた。 丁度いい、アサシンブレードでチマチマ刺すより、効率がいい方法をわざわざ相手が用意してくれた。 エツィオがフードの中で薄く笑う。 「そうだな、決闘には武器を使うものだ」 エツィオは優雅に一礼し、ゴーレムの群れに向かい手を差し伸べる。 「それでは、お集まりのご婦人がた、わたくしと踊っていただけますか?」 「いっ! 行け! ワルキューレ!」 挑発を受けたゴーレムがエツィオを取り囲み、一斉に襲いかかった。 そして一気に揉みつぶす……かに見えた瞬間、包囲網を突き破り、二体のゴーレムとエツィオが飛び出した。 右手と左手、それぞれゴーレムの眉間にアサシンブレードを突き立てそのまま前方に押し倒す。 倒した衝撃でゴーレムが持っていた斧と槍が宙を舞う。 エツィオは落ちてきた槍をつかみ取ると、倒れているゴーレムに突き立て、地面に縫い付けて動きを封じた。 「ちょっと借りるぞ」 誰に言うわけでもなく呟いたエツィオは、地面に突き立った両手斧に手をかける。 ルーンが光り出し、体が軽くなる。ありがたいことに、どうやら全ての武器に対してこの効果は有効なようだ。 本来ならば片手で扱うようなものではないが、エツィオは右手で軽々と両手斧を振い、倒れているもう一体のゴーレムを両断する。 金属がひしゃげる音とともに、ゴーレムの胴体が真っ二つに切断された。 「おい! 本当に青銅製なのか?」 斧を肩に担ぎながらエツィオが小馬鹿にした様子でギーシュに話しかける。 そのまま斧を振い、彼に襲いかかろうと間合いに入り込んだゴーレムの胴体を豪快に切断した。 続けざまに残ったゴーレム達を屠って行く。そのあまりに異様な光景にギーシュは咄嗟に残りの一体を自分の盾に置いた。 次の瞬間、そのゴーレムの頭にエツィオが放り投げた斧の刃がざっくりと突き刺さり豪快な音を立てて倒れこむ。 「ひぃっ!?」 あっという間に全てのゴーレムを平らげたエツィオは、腰を抜かしたギーシュに向かい歩いて行く。 ギーシュは、まるで死神を見ているかのような表情で歩み寄るエツィオを見上げた。 フードの中身は影になっており、笑っているのか、はたまた無表情なのか、彼の表情をのぞき見ることはできなかった。 彼が小さく両腕を広げる、開かれた両手から二本のブレードが勢いよく飛び出した。 鈍く光るそれは、まるで死神が振う剣を連想させる。 「あ……ぁ……」 「ギーシュ・ド・グラモン、お前には、我が家名を侮辱した償いを受けてもらう」 迫りくる恐怖にもはや声すらも出ない、そんな彼に追い打ちをかけるようにエツィオが口を開いた。 「汝、怖れより解き放たれよ。眠れ、安らかに――」 言葉が終わるや否や、エツィオはギーシュに猛禽のごとく飛びかかる。 大鷲が獲物を捕らえるように、エツィオは左手をギーシュの首に向け突き出す。ブレードがみるみる迫ってくる。 やられる! 思いっきり目をつむった。 広場に悲鳴が響き渡る。地面に強く押し倒され、首を掴まれる感覚、 あぁ自分は殺されたんだな……。死ぬ時は一瞬か、痛くもなんともないや……。そう思った。 「っ……! あ……あ……あれ?」 しかしいつまで経っても意識ははっきりしているし、広場の喧騒も聞こえる、 第一痛くも痒くもない。あるのは首根っこを掴まれている感覚だけである。 ギーシュが間抜けな声を出しながら恐る恐る目を開ける。 目の前にはフードを被った男が自分の首を掴み、してやったりといった表情で笑っている。 「なんてな、冗談だ」 エツィオはギーシュの首から手を離すと、ぽんと、肩に手を置いた。 ギーシュは何度も首に手を添え、血が流れてないか確かめる。しかしいくら撫でてみても血なんてどこにも付いていないし。 ましてや傷も付いていなかった。 「まだ続けるか?」 ギーシュは首を横に振る、杖は取られていない、しかし完全に戦意が喪失していた。 「ま、参った……僕の負けだ」 それを聞いたエツィオはニヤリと口元を歪めると、ギーシュの肩をたたき立ち上がった。 広場が歓声にどっと湧きあがった。 あの平民、やるじゃないか! とかギーシュが負けたぞ! とか、エツィオ様! 素敵! とか見物していた連中からの歓声が聞こえてきた。 その歓声に軽く手を振って応えながらエツィオは歩き出した。 そしてすぐに自分の左手を見つめる。そこにはルイズとの契約時に刻まれたルーンがあった。 もう一度アサシンブレードを引き出すと、再びルーンが淡く光り出し、体が羽のように軽くなった。 それだけではない、アサシンブレードの殺傷力が増し、両手で扱うはずの大斧がまるで木の枝のように軽く感じたのだ。 一体これは何なのだろうか、どうやら武器を使う時にだけ効果があるようだが……。 まぁなんにせよ、後でルイズに聞いてみるか。そう考えていると、ルイズが駆け寄ってくるのが見えた。 「やあルイズ」 「エツィオ!」 まるで散歩から帰ってきたかのように右手を上げ、いつもの軽い口調で話しかける そんなエツィオとは裏腹に、ルイズは目じりに涙をため軽くパニック状態に陥っていた。 「あんた! だっ、大丈夫なの! ち、血が出てる!」 「なに、ただのかすり傷さ」 「でっ、でもっ……!」 エツィオは口元についた傷に手を添える、まだじくじくと痛いがすでに血は止まっている。 騒ぐほどではない傷を、涙目になりながら心配してくるルイズを見て、エツィオはついついからかいたくなってしまう。 「おや? 心配してくれてるのか? これはうれしいな!」 エツィオがルイズを両手で抱きよせる。 エツィオに抱き締められる形になったルイズは顔を真っ赤にしながら、エツィオの股間を蹴り飛ばした 「ぐぁっ!? ……ル……ルイズ……な、なにを……」 「こここっ、こっちのセリフよこのバカ使い魔! ごごご、ご主人様にい、い、いきなり、だ、だ抱きつくなんて! な、なんてことをっ!」 「だ、だからって……この仕打ちは……」 股間を押え、悶絶しながら地面に倒れ伏したエツィオをガシガシと蹴りつけながらルイズは怒鳴りつける。 「もうっ! 折角人が心配してやってるってのに! このぉ!」 「あだっ! 心配してくれるならこれ以上は勘弁してくれ! あいつのゴーレムよりおっかないな君は!」 「うっ! うるさい! もう知らない! このバカ!」 ボロボロになったエツィオが立ち上がりローブについた埃を叩き落していると、ようやく立ち上がったギーシュが近づいてきた。 「ミスタ!」 「ん? 君は……まだなにかあるのか?」 ギーシュはエツィオの前に立つと、深々と頭を下げた。 「ミスタ・アウディトーレ、家名を侮辱するという貴族にあるまじき行為、どうか許してほしい」 エツィオは頭を下げているギーシュに近寄ると、ぽん、と、肩に手を置いた。 「顔をあげてくれ、もう済んだことさ」 「しかしっ!」 「それに、俺も少々大人げなかった所もあるしな、悪かった」 「あ、ありがとう、ミスタ」 「エツィオでいいよ。モテる男ってのは、つらいよな、ギーシュ」 軽くウィンクしながらエツィオが右手を差し出す、ギーシュもそれに応えた。 「エツィオ、君は一体何者なんだ? この僕のワルキューレを倒すなんて」 「なに、別にたいしたものじゃない、全ては訓練の賜物さ」 「訓練って……、しかし、魔法が使えないのに僕のゴーレムを倒すなんて今でも信じられないよ」 「ふんだ、あんたが弱かっただけじゃないの?」 横からルイズが茶々を入れる、するとエツィオが首を振った。 「とんでもない、ギーシュ、君は俺が今まで戦ってきた敵の中でもっとも強かった、断言してもいい。今回は運が良かっただけだな」 「そ、そう言ってもらえるとうれしいな、それでもまるで歯が立たなかったけどね……」 エツィオは肩をすくめながら正直な気持ちを伝える、命のないゴーレムは一撃で仕留めることを旨とする彼にとって最悪の相手だった。 今回は成り行き上決闘と言う形になってしまったが、メイジと戦う際は真正面から戦うべきではないと改めて認識した。 オスマン氏とコルベールは、『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。 「あの青年……勝ってしまいましたが……」 「うむ」 「ギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジですが、それでも平民に後れをとるとは思えません。 そしてあの動き! あんな平民見たことがない! やはり彼は『ガンダールヴ』!」 「じゃろうな……あの動き、彼と同等……否、それ以上か……」 「オールド・オスマン。さっそく王室に報告して、指示を仰がないことには……」 「ミスタ・コルベール」 興奮して泡を飛ばすコルベールを諌めるように、オスマン氏が口を開く。 「彼はただの平民ではないよ」 「はい? ……と、いいますと、どういう……」 その言葉に疑問を浮かべながらコルベールがオスマン氏に尋ねる。 オスマン氏は、杖を振り、『遠見の鏡』にもう一度ヴェストリ広場の光景を映し出させる。 『遠見の鏡』は、決闘時にエツィオによって最初に破壊されたゴーレムを映し出した。 「これは……彼に破壊されたゴーレムですね、これが何か?」 「『炎蛇』よ、よく見たまえ、何か気がつくことはあるかね?」 「……えぇ、全身に刺突された痕……最後に首を裂かれて……。こっ、これはっ!」 倒れたゴーレムを見ていたコルベールの顔がみるみる青くなる。 「うむ、人体の急所を寸分違わず貫いておる、心臓、肝臓、膵臓、頸椎、腋、こめかみ、眼球、喉。 ……君はこの全ての急所に刃を突き立てられて、立っていられるかね?」 「……御冗談を、これがゴーレムでなければ最初の一撃で即死です」 「こんなエグい戦い方をする人間を、私は一人しか知らん」 オスマン氏は、そこでいったん言葉を切ると、机の上に置かれた一枚のスケッチを手に取る。 それは先ほどコルベールが書いた、エツィオが身に着けている紋章だった。 オスマン氏は昔を懐かしむような目で紋章のスケッチを見つめ、言った。 「間違いあるまい、彼は『アサシン』じゃ」 「『アサシン』っ……! そんな……!」 『アサシン』、『暗殺者』、その言葉に、コルベールは思わず言葉を失う。 オスマン氏はそんな彼を窘めるかのように声をかけた。 「ミスタ・コルベール、彼の名誉のために言っておくが、私の言う『アサシン』とは決して殺人狂ではない、断言しよう」 「ど、どうしてそんなことが言えるのです! よりにもよって『アサシン』とは! 彼は暗殺者ですぞ!」 「落着きなさい、ならばどうして彼はギーシュを殺さなかったのかね? それに、先も言ったが、彼は君の認識するような『暗殺者』ではない」 オスマン氏はそう断言すると、手に持っていたスケッチの紋章を見せる。 「『罪なき者を殺めるなかれ』、彼らの掟じゃ」 「掟? 掟とは一体……」 身を乗り出し質問するコルベールを無視し、オスマン氏は再び杖を振る、 ワルキューレを映していた遠見の鏡はエツィオを映し出した。 「ほほっ! これはまた、彼にそっくりじゃのう」 オスマン氏は昔を懐かしむように目を細めると、椅子に深く腰掛けもたれかかる。 なんのことかわからないコルベールは、釈然としない様子でオスマン氏の言葉を待った。 「オールド・オスマン、それで、王室に報告するという件はいかがいたしましょう。私としては、やはり指示を仰いだほうが……」 「それには及ばん」 オスマン氏は重々しく頷いた。白い髭が、厳しく揺れる。 「どうしてですか? これは世紀の大発見ですよ! 現代に蘇った『ガンダールヴ』!」 「ミスタ・コルベール。『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない」 「はい、その通りです。始祖ブリミルの用いた『ガンダールヴ』は主人の呪文詠唱の時間を守る為に特化した存在と伝え聞きます」 「そうじゃ、始祖ブリミルは呪文の詠唱にえらく時間がかかったそうじゃな、知っての通り詠唱中のメイジは無力じゃ その間、己の身体を守る為に始祖ブリミルが用いた使い魔が『ガンダールヴ』じゃ、その強さは……」 その後を興奮した様子のコルベールが引き取った。 「千人の軍隊をたった一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジではまったく歯がたたなかったとか!」 「それじゃよ、そのただの使い魔ではない『ガンダールヴ』が『アサシン』であることが問題なのじゃ。 王室のボンクラどもに『ガンダールヴ』である『アサシン』と、その主人を渡すわけにもいくまい。 そんなオモチャを与えてしまえば、彼らは喜んで彼を使いあらゆる政敵を暗殺するじゃろうな。 無論、その前に彼の刃が宮廷のボンクラ共の首を切り裂く可能性も十分ある……彼、アルタイルがそうだったように」 「彼……? アルタイルとは?」 「なに、私の古き友人じゃよ、彼もまた『アサシン』であった。もっとも彼は煙のように消えてしまったがね。 ともかくじゃ、この件はわしが預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール」 「は、はい! かしこまりました!」 オスマン氏は、コルベールを下がらせると、重厚な机の引き出しを、首に下がった鍵を使って開けた。 その引き出しの中を見つめながら、遠い記憶の彼方へ、思いを馳せ、呟く。 「世が乱れし時、若き大鷲が現れる……。師よ……貴方はこれを予見していたというのですか……?」 オスマン氏は、まるで祈りを捧げるように、左手を胸に当てると、薬指を曲げ、眼を瞑った。 「ならば、私はそれに従いましょう、全ては大導師の仰せのままに……」 決闘騒ぎも収まり、次の授業が始まるとのことで、ヴェストリの広場に集まった生徒達が退散していく。 その中で、女好き同士お互いなにか通じるものがあったのか、エツィオとギーシュが歩きながら談笑に興じていた。 その様子は、先ほどまで決闘していた者同士とは思えないほど親しげだ。 「おっと、そうだギーシュ、これ、返しておくよ」 「こっ、これは……」 ギーシュに、エツィオが何かを放り投げる。 それは決闘の引き金になった香水の小壜だった。 エツィオがギーシュと肩を組み誰にも聞こえぬようにひそひそと話しかける。 「俺がそれを開けた時、動揺してたところを見ると、お前の本命はモンモランシーって子だ、違うか?」 少し顔が赤くなっていたギーシュはやれやれと言った表情で肩をすくめた。 「まったく……君には敵わないな……」 「その様子をみると当たりか、それで? どこまでいってたんだ? もちろん抱いたんだろ?」 「なっ! き! 君! そ、そんな野暮な事を聞くものじゃないだろ!」 突然顔を真っ赤にしてギーシュが叫び出す。 横にいたルイズが怪訝な表情をして二人を覗き込む。 「ちょっと、何の話よ」 「なんでもないさ、男同士の話だよ」 エツィオはルイズを押しやると、再びガシリとギーシュと肩を組む。 「で? どうなんだ?」 「あぁ……それは……その……なんと言うか……」 「おい……まさかとは思うが……」 「な、ななな、なんだね?」 「お前、その様子だとまだその子のこと抱いてすらいないな?」 あからさまに動揺を始めたギーシュに、エツィオは呆れたように大きくため息を吐く。 「お前……それで自分のこと薔薇だとかどうとか抜かしてたのかよ……その様子じゃ大した経験もないな?」 「きっ! 君はどうなんだ! そんなに言うからにはもちろんあんなことやこんなこと!」 「当然だろ、お前と同じ頃には何人食ったかすら覚えてないよ。人妻もいたかな? そりゃ大変だったぜ? もう裁判沙汰まで行ったこともあるくらいさ」 「き……君ってやつは……!」 「ねぇ! さっきから一体何を話してるのよ?」 「「武勇伝だ、ひっこんでくれ」」 「なっ! 何よもう!」 蚊帳の外に置かれてしまったルイズが怒鳴り散らすも、エツィオとギーシュはなおもひそひそと話を続けている。 すると突然、ギーシュが大声をあげて笑いだした。 「あっはははは! すごいな君は! どうやってその修羅場をくぐりぬけたんだ? 後学のために教えてくれよ!」 「そろそろ行くわよ!」 「なに、コツなんて必要ないさ、ただな……」 「ちょっと!」 「あっ、その手があったか! まったく、君には頭があがらないな!」 「聞いてるの!?」 「大げさだな、ちょっと考えればわかることじゃないか、っと、……なんだよ、これからが面白いところなのに」 後ろから肩を掴まれ、エツィオが振り向く、そこには今の今まで無視され続けたルイズが鬼の形相で立っていた。 「こ、こここ、この……馬鹿使い魔……! ご、ご主人様を無視し続けるなんて、い、いい度胸してるじゃないの……!」 「なんだ、かまってほしいのか? 案外寂しがり屋なんだな君は、心配しなくても、あとでたくさん相手してあげるさ」 エツィオは笑いながら、ルイズの頭にぽんと手を置いた。 ルイズはそれを振り払わずにエツィオの二の腕をガシリと掴む。 その細い指のどこにそんな力があるのか、エツィオの腕に食い込んで離さない。 「そ、そろそろ授業だな! それじゃエツィオ! また話を聞かせてくれたまえ!」 「あっ、おい!」 ただならぬ気配を感じたギーシュは苦笑いを浮かべそそくさとその場を後にする。 エツィオは肩をすくめて見送ると、ルイズに視線を戻した。 「だとさ、君も授業だろ? 行かなくていいの――うわっ!?」 いきなり飛んできたルイズの拳をかろうじて受けとめる。 「おいおい、そんなに寂しかったのか? だからって何も殴ること……!」 「うるっさい! この馬鹿! あんたはわたしの使い魔でしょ! ご主人様を無視するなっ!」 レディというよりは、まるで手のかかる妹だ、エツィオは苦笑いを浮かべながら、ルイズを窘めた。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/orisutatournament/pages/75.html
第07回トーナメント:準決勝① No.6037 【スタンド名】 インサルト・II・インジャリー 【本体】 キッド 【能力】 スタンドのつけた傷がどんどん深くなっていく オリスタ図鑑 No.6037 No.5307 【スタンド名】 ツリートップ・ロック 【本体】 エツィオ・クラーツ 【能力】 指先から種を撃ちだし、着弾地点から枝を生やす オリスタ図鑑 No.5307 インサルト・II・インジャリー vs ツリートップ・ロック 【STAGE:廃棄された飛行場】◆LglPwiPLEw エツィオ「フゥー、何もこんな辺鄙なとこでやらんでも・・・」 エツィオ・クラーツは、ひとけのない夜の飛行場で“相手”を待っていた。 空は澄んでいて、月明かりが滑走路一面を照らしていた。 エツィオ「ま、一回戦よりかは人工的な場所だけどな・・・」 飛行場全体を見渡せる管制塔。 その前で、エツィオはのんびりと煙草を咥えていた。 彼の職業は自然保護官である。 自然の中ではもちろん煙草など吸わないが、人工の物体に囲まれていると容赦なく吹かしまくる。 コツ・・・ コツ・・・ エツィオ「お、来たな」 建物の中で音がしたのに気付き、エツィオは振り返った。 エツィオ「今度の相手はノリのいいヤツかなァー」 呑気にもそんな独り言を言いながら、エツィオは相手を待ち構える。 ・・・・・・ エツィオ「・・・?」 何かが変だ。 そうエツィオがそう感じた瞬間――― 彼の背後から凄まじい『殺気』が押し寄せた。 エツィオ「うおッ!!」 シュビン! エツィオは声をあげながら、反射的に攻撃をかわした。 エツィオ「ッッッ―――――とォ~~~、そっちから来るかァ~!」 キッド「・・・ふん」 エツィオの対戦相手・・・キッドは残念そうに鼻を鳴らした。 キッドはあらかじめ建物の天井に傷をつけておき、崩れた破片を時間差で落とすことで、相手の注意を引いたのだ。 キッド「今のタイミング、普通だったら間に合わなかった・・・戦い慣れしてるね」 エツィオ「なんだよいきなりィー! 歳の割に冷たいカンジだなぁー」 エツィオは相変わらず軽々しいノリで話しかけた。 キッド「・・・ハァー、僕の相手ってなんでこんな奴ばっかなんだろう。 僕は忙しいんだ。早いとこ死んでよ」 バッ! 突然、エツィオの死角にキッドの『インサルト・Ⅱ・インジャリー』が現れた。 そして、エツィオの首めがけて刃を振るう! ザクッ! エツィオ「まぁまぁー、そう焦ってちゃあいけねーぜ? 人生なげーんだからよ」 自分の腕から生やした“枝”で、キッドの攻撃を防いだ。 エツィオ「それにしてもおたくのスタンド、いくらなんでも力不足じゃあねーか? 庭の手入れもできねーぜ?」 キッド「うるさい」 シュシュシュシュシュシュ!! 間髪をいれず、キッドは高速回転するカッターのように小さなスタンドの猛攻を繰り出す。 『傷をだんだん深くしていく能力』・・・ 刃が肌を掠りさえすれば、スタンドの作用で相手は致命傷を負うことになる。 エツィオ「うおぉぉっと!」 エツィオは少しづつ後ずさりしながら防御している。 予想以上のスピードだった。 キッド「おじさん危ないよ」 キッドは懐から投擲用ナイフを取り出すと、流れるような仕草で後ろからエツィオに放り投げた。 ビュン! エツィオ「くッ!」 バシッ! カランカラン 『ツリートップ・ロック』が、音をたてて飛んでくるナイフを遠くに弾き飛ばした。 キッド「決まりだ・・・」 エツィオがナイフに気を取られた一瞬のスキを付き、『インサルト・Ⅱ・インジャリー』はエツィオの胴体に刃を差し込む。 エツィオ「うッ!!」 バシン! すぐさまエツィオは刃を弾いて距離を取ったが、服が破れ、そこから赤い血が滲んでいた。 エツィオ「・・・クソッ!」 キッド「ふふふ! これで僕の勝ちだ! 『インサルト・Ⅱ・インジャリー』のつけた傷はどんどん深くなるッ! あとは僕が逃げまわっていれば、数分で傷はお前の心臓に達するッ! ・・・それとも、土下座して降参する? そしたら能力を解除してあげてもいいけど」 不気味な笑みを湛えながら、キッドはエツィオに話しかけた。 それは完全に子供のものではない。 情け容赦無いテロリストの態度だった。 エツィオ「・・・降参? なに言ってんだテメェ・・・」 キッド「・・・!」 エツィオが先ほどまでとは全く違う声色で話したので、キッドは少し驚いた。 エツィオ「俺は最後の最後まで諦めねーよ・・・たとえ心臓を斬られようが、胴体が切断されようが・・・ 死に至るその寸前まで、俺は諦めねぇ・・・」 キッド「・・・」 大丈夫なのかコイツは? とキッドは思った。 自分があと数分の命だというのに、全く焦る素振りを見せないとは。 エツィオ「聞けばお前、テロリストの一員らしいな。・・・どんなのかは知らんが、お前の目は既に何人も殺ってる目だ」 キッド「なぁにダラダラ話してるのおじさん、今も傷は深くなってるんだよ」 キッドは既に逃げる気マンマンだった。 だが、エツィオのスタンドは枝を生やす程度のショボい能力。 飛び道具にさえ気をつければ、近づかない限り大丈夫だ。 そして、エツィオの身体に傷がついた今、もはや自分の勝ちは決まったようなものだ。 エツィオ「まぁ聴けよ。俺は自然保護のレンジャー部隊に所属してる。 俺とお前には、決定的な違いがあるんだ・・・だから、俺は勝つッ!」 キッド「・・・?」 言っている意味が分からず、キッドは呆れすら感じた。 何か時間を稼ぐ理由があるのかと周囲を警戒してみたが、そんな気配は何もなかった。 エツィオ「今はまだ平和なとこで仕事してるが、前にいた島はヤバかった・・・ 武装した密猟団とドンパチした時なんてさながらゲリラ戦の戦争だったぜ。それでも俺には、『自然』を守る使命があるんだ。 お前は“殺す”、俺は“守る”。それが決定的な違いだ。“守る”と決めて覚悟した時の強さは、お前らの比じゃあねーんだよ!」 キッドにとって、エツィオの台詞は腹立たしい以外の何物でもなかった。 キッド「何を言い出すかと思えば、クドクドと根性論を・・・ナメんじゃあねーぞクソオヤジ!!」 ダッ! キッドは、先ほど弾き飛ばされたナイフの方向へ走りだす。 エツィオ「OK、読みが当たって嬉しいぜ・・・そっちに向かってくれることをよォ!」 シュババババ!! キッド「!!」 さすがのキッドも驚愕した。 地面のマンホールの中から、大量の“枝”が怪物のように湧きでてきたのだ。 キッド「うわああああッ!!!」 あっという間に、キッドは全身をがんじがらめにされてしまった。 エツィオ「さっき投げたナイフを取りに行くかと思ってよォ~、あらかじめその罠を設置してた方向にナイフを飛ばしたんだよ! お前のスタンドじゃあ、その枝を切るのに時間がかかる・・・そしてッ!」 バシュ! ガラガラガラ・・・ エツィオは近くにある車庫らしき建物のシャッターに向かって“種”を飛ばし、枝にシャッターを持ち上げさせた。 エツィオ「じゃじゃ~ん、これは何でしょう?」 キッド「・・・!」 シャッターの中にあった物は・・・ エツィオ「飛行機を引っ張る航空機牽引車だぜ・・・ここはもう使われてないが、コイツは残ってたみてーだな! 都合よく燃料も入ったままだったしよォ!」 バシュ! もう一発、エツィオは種を飛ばした。 種は牽引車のガラスを突き破って運転席に着弾する。 すると、枝はスルスルと伸びて鍵穴に潜り込み、器用にエンジンを始動させた。 ドルルルルルン!! 夜空に響く獣の遠吠えのように、牽引車のエンジンが呻った。 牽引車の直線上には、動くことのできないキッドの姿がある。 エツィオ「・・・っつーわけで、これから何をするか分かるな? この牽引車に轢き潰されたくなかったら、能力を解除して降参しな!」 運転席の枝はギアを切り替え、アクセルを押した。 ブオオオオオ!! 牽引車がゆっくり進みだす。 キッド「う・・・あ・・・」 キッドの表情は恐怖に歪んでいた。 エツィオ「牽引車は少なく見積もっても5t以上はある・・・お前の負けは確定したんだ。負けを認めろ!」 キッド「ひ・・・」 キッドは何も言わない。 エツィオ「往生際が悪いな・・・それとも俺と一緒に死ぬ気なのか?」 キッド「そう・・・かも・・・しれないね・・・」 エツィオ「あ?」 キッド「僕はナイフを取りに走ったんじゃあない・・・“避難する”ためだったんだ・・・ 僕もずっと前からココに来てて・・・“切ってたんだ”・・・ この時間に・・・“倒れること”を計算して・・・」 キッドは牽引車ではなく、上を見上げていた。 エツィオ「なに言ってん・・・だ・・・?」 ふと、月光が陰った。 ガラガラガラガラ!! 続いて、エツィオの背後で壁が崩れるような音がした。 ゾワッと、エツィオの全身に悪寒が走る。 キッド「へへへ・・・ちょっと演出としては・・・オーバーすぎたかな? “管制塔を切り倒す”って発想・・・」 一切の音を立てることなく、2人の頭上に管制塔がゆっくりと倒れてきた。 ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!! 凄まじい轟音と砂埃をあげ、管制塔は地面に崩れ落ちた。 ・・・・・・・ パラパラパラ・・・ キッド「・・・」 エツィオ「植物の力ってのは凄いもんでなぁ、家の土台を持ち上げて生えてきたりする・・・ まぁこの場合、俺のスタンドがこんなに成長しちまったことにオドロキだがな」 2人は無事だった。 2人の周りには、無数の枝がドーム状に寄り集まっている。 それらは中心で真上に伸び、まるで何百年もの樹齢を持つ大木のようになっていた。 この大木が、2人を守ったのだ。 エツィオ「残りの“種”をダメもとで撃ったらこうなっちまったぜ・・・ しかしまぁ、管制塔を倒すなんてヤバい発想だな。木こりでもねーのによ」 キッド「・・・身体の傷は? 既に心臓に達しているはず・・・」 エツィオ「あ? あぁ、そいつは嘘っぱちだ」 キッド「え・・・? あっ!」 エツィオの服は既にボロボロになるほど傷が広がっていたが、“エツィオ自身は無傷だった”。 エツィオ「あの赤いのは、コレだよコレ」 エツィオは服の中からシワシワに枯れた“枝”を取り出した。 エツィオ「『血を流す木』・・・赤い樹液を出す木なんだ。 騙すのに使えるかと思ってな、俺の身体から生やしといたんだ。 ・・・俺がかつて守ってた、太平洋の孤島に生える種類の木さ」 キッド「・・・・・・」 砂埃は消え去り、再び周囲は静寂に包まれていた。 先ほどまでと違うのは、管制塔が消えたことで、空の明るさが一層増したように感じられることか。 エツィオ「俺は初めからお前に勝ってたんだ。発想のスケール以外ではな。 俺は自然を“守った”。だからその自然が味方してくれたんだ・・・! ・・・な~んてのは自意識過剰か? 所詮はスタンド同士のバトルだしな! ハハハッ」 キッド「・・・」 キッドは何も喋らない。 エツィオ「・・・で、どうすんだ?」 キッド「・・・僕の負けだ・・・完全敗北だ・・・」 エツィオ「あたりめーだそんなの! お前自身が今後どうすんのかって聞いてんだよ!」 キッド「えっ!? そんな・・・そりゃあ、僕はこの仕事を続けるよ。続けなくちゃあならない。 ただ、アンタの気高さは良く学ばせてもらった。だからこれからの任務には、その精神を活かさせてもらうよ」 エツィオ「ケッ! まだまだガキなんだぜオメーは! 学ぶべきことなんか義務教育の10倍以上あるわ!」 キッド「・・・フフ。じゃあ、決勝戦がんばって・・・」 エツィオ「おう! お前も仕事頑張れよ!」 キッド「・・・うん!」 ★★★ 勝者 ★★★ No.5307 【スタンド名】 ツリートップ・ロック 【本体】 エツィオ・クラーツ 【能力】 指先から種を撃ちだし、着弾地点から枝を生やす オリスタ図鑑 No.5307 < 第07回:準決勝② > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
https://w.atwiki.jp/hanakochan/pages/28.html
11月24日に更新されたブログ記事にて縦読みを仕込み鬼女を挑発 197 名前:既にその名前は使われています[] 投稿日:2009/11/24(火) 08 46 31 ID 7WS3m6ci なぁ、最新記事なんだが 縦読みになってないか…? 流石に偶然だとは思うんだが…いや、偶然だと言ってくれ… 199 名前:既にその名前は使われています[] 投稿日:2009/11/24(火) 08 56 58 ID 24cCEHch 197 オバサン特定ゲーム進展マダ?私退屈だぞ♪ 200 名前:既にその名前は使われています[] 投稿日:2009/11/24(火) 08 57 44 ID aJ/FL0X0 縦読みでオバサン特装になってるねwww ほっとけば沈下するのに… 話を摩り替えている様に見える。嘘だと指摘されたのなら真実だと証明するのが手っ取り早い ここまで大っぴらに煽れるということはブログのリアルに関連する記事は嘘なのでは?
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8546.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 翌朝……。 開け放たれた窓から入り込むそよ風がルイズの頬を優しく撫でる。 「う、うぅん……」と、差し込む光にルイズは目を覚ます。 そしてはたと、隣を見ると、そこには自分と同じように横になった使い魔が、穏やかな笑みを浮かべ、自分の顔を覗き込んでいた。 「ひゃっ!」 「やあルイズ、buon giorno(おはよう)」 驚きのあまり、ベッドから跳ね起きたルイズを見つめながら、エツィオはニヤリと笑う。 どうやら、ルイズが起きるまでこうして顔を覗き込んでいたらしい。昨夜に引き続き、なんともまぁ元気な男である。 「お、おはようじゃないわよ! あ、あんたなにしてんのよ!」 「なにって、きみの寝顔をみていただけさ。本当はちゃんと起こそうと思ったんだけど、あまりの美しさと可愛らしさについ見惚れてしまってね」 朝っぱらからペラペラと口説き文句を並べ立てるエツィオに、昨夜のこともあったルイズは、気恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながら後ずさる。 「そ、そんなことより! 洗面器は用意したの!」 「もちろん、着替えもそこに」 エツィオはそう言いながら、置かれた洗面器を指さした。ご丁寧にも椅子の上には綺麗に畳まれた着替えまで用意してある。 顔の下半分をシーツに埋めながら、ルイズは、う~~~っと唸った。昨夜も感じたことだが……、帰ってきて早々のこの仕事っぷりにぐうの音も出ない。 「さ、早く起きて着替えろよ、それとも、このまま俺と一緒に二度寝でもするか?」 「ばかっ!」 身体を起こし、再びニヤっと笑うエツィオに手元の枕を投げつけると、ルイズはベッドから起き、洗面器に向かった。 それからエツィオは、ルイズの顔を洗ってやるために洗面器に向かう、 するとルイズは、エツィオに来なくていいと言わんばかりに手を振ってみせた。 「いい、自分で洗うわ」 エツィオはちょっと驚いたようにルイズを見た。 まさかルイズの口から「自分でやる」なんて言葉が出るとは思わなかったのだ。 「なんだ? 珍しいな、俺のいない間に何があったんだ?」 からかう様にエツィオが言うと、ルイズは拗ねたように唇を尖らせて、そっぽを向いた。頬が染まっている。 なんだか怒ったような様子で、ルイズは言った。 「うっさいわね、ほっといてって言ってるでしょ」 ルイズは洗面器に手を入れ、水をすくうと思い切り顔を振って、顔を洗った。水が跳び散る。 「へぇ、きみ、顔を動かして洗うタイプか」 エツィオがそう言うと、ルイズははっとした顔になった。それから、頬を染めて怒る。 「い、いいじゃないのよ!」 「なるほど、これはいいことを知ったぞ、この事を知っている男は世界で俺だけだろうな」 そんなルイズにタオルを差し出しながらエツィオはニッと笑った。 ルイズの顔がかぁっと赤く染まってゆく。 「な、なによなによ! だ、誰にも言わないでよ!」 「もちろんさ、俺しか知らないきみの秘密を、他の男どもに知られてなるものか」 エツィオは口元に人差し指を立て、軽く肩を竦めウィンクして見せた。 ロマリア人もかくやと思わんばかりのエツィオのキザな台詞に、ルイズはくらくらと眩暈がするのを感じた。 見るとにやにやとほほ笑んでいる、どうやらルイズの反応を楽しんでいるらしい。 「そんなに見つめるなよ、照れるじゃないか」 もはや言い返す気が起きない、たとえ何か言い返したところで、この男はそこを足がかりに更なる口説き文句を放ってくるに違いない。 言われて悪い気はしないが、こいつの思い通りというのも気に入らない。 ルイズは言い返したい気持ちをぐっとこらえ、エツィオからタオルをひったくって顔を拭いた。 顔を拭きながらルイズは、本当にコイツは、あのアルビオンを震え上がらせる超凄腕のアサシン、『アルビオンの死神』なのだろうか? と首を傾げる。 昨夜も思ったことだが……、エツィオのこういった面しか見ていないルイズにとっては何とも疑問に感じざるを得ない所である。 それからルイズは着替えの制服を取ると、昨夜の様にベッドの上にシーツでカーテンを作り、その中で着替えを始める。 窓から入り込む朝日が、着替えるルイズの影をカーテンに浮かび上がらせる。下着を替えているのだろう、片足を上げ、するりと一枚の薄い布が足から離れるのが見えた。 これはこれでなかなか蠱惑的な情景だなと、そんな事を考えながら、どこまでもまっ平らなルイズのシルエットを眺めていたエツィオだったが、 不意に真面目な表情になると、着替えをしているルイズに向かい、口を開いた。 「なぁルイズ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」 「な、なによ」 カーテンの中からなにやら警戒しているような声が返ってきた、どうやらまた口説き文句が飛んでくると思っているらしい。 だがエツィオは表情を替えずに言葉を続けた。 「俺のことだ。わかってると思うけど、俺がアサシンだということは、誰にも言わないで欲しい」 「ん……、そうよね……わかってるわ」 「理解が早くて助かるよ、……きみの為でもあるからな」 カーテンの中でルイズは、こわばった顔で頷いた。 「俺はアルビオンじゃお尋ねものだ、下手をするときみ自身が狙われるかもしれない、それだけはどうしても……な。それに……」 「それに?」 カーテンの奥からルイズが尋ねる。 敵は外だけにいるとは限らない……、という言葉が口から出かかったが、エツィオはそれを飲みこんだ。 むしろ警戒すべきなのは内側……、学院はともかく、王宮内部には敵の間諜や、アサシンの力を私欲の為に利用しようとする者も現れるかもしれない……。 無論、そうなる前に、そういった連中を消すつもりではいるが……、今はルイズに余計な心配をかけるわけにはいかないと、エツィオは腕を組んだまま、小さく首を横に振った。 「いや……なんでもないさ」 「そう……、でもエツィオ?」 「ん?」 エツィオが顔を上げると、カーテンの中のルイズがこちらを指さして言った。 「例えあんたがどんなに凄いアサシンでも、あんたはわたしの使い魔なんだからね? やることはいつも通り掃除とかその他雑用! あんまり調子に乗らないこと!」 その言葉にエツィオは笑いながら大仰に肩を竦めて見せた。 「はいはい、なんなりとご命令くださいませ、ご主人様。……さ、それより着替えは終わったか? 早くしないと悪い使い魔がカーテンを開けちゃうぞ!」 「やっ、ちょっ! い、今終わるから待って!」 今までとは一転、明るい口調でエツィオがカーテンに歩み寄る。 すると、ルイズは怒ったような口調で、カーテンを開けた。 見ると、やはり急いでいたのだろう、着替え終わってはいたが、制服の襟が捲れていた。 「やっと終わったか。寝起きのきみもかわいいけど、きみはやっぱり、凛としてなくっちゃな」 エツィオはにっこりとほほ笑みながら、ルイズの襟元を正してやる。 「これで完璧だ。さ、朝食の時間だろ? 行こうか」 「あ……、う、うん……」 服装を整えてもらったルイズは口をへの字に曲げながら呟き、エツィオと共に食堂へと向かった。 エツィオとルイズがアルヴィーズの食堂に入ると、一瞬だけ周囲がざわついた。 ここ最近姿を見せなかったルイズの使い魔の男が、再び現れたからであった。 「あっ、エツィオ! エツィオじゃないか!」 そんな中、エツィオの姿を見つけたギーシュがこちらに走り寄ってきた。 「ようギーシュ!」 「エツィオ! 無事だったのかね! よかった!」 「ああ、お陰さまでな」 エツィオは笑みを浮かべると、ギーシュと固く握手を交わす。 「いやぁ、ルイズ、よかったじゃないか、彼がちゃんと戻ってきてさ」 「うっさいわね……」 あっはっはと笑うギーシュに、横にいたルイズはつまらなそうに頬を膨らませる。 「脱出した後、大変だったんだぞ、きみがいないことを知ったルイズが泣くわ暴れるわで……」 「ちょ、ちょっと、余計なこと言わないでよギーシュ!」 慌てた様子でルイズが抗議の声を上げる。 それを聞いたエツィオはニヤッと笑みを浮かべると、ルイズの肩を抱き寄せた。 「やっぱりな、きみは寂しがり屋だからな。心配せずとも、これから寂しい思いをさせた分、たっぷり相手をしてあげるさ」 「やっ! ばか! なにしてんのよ! もう!」 人目もはばからないエツィオの行動に、顔を真っ赤にしたルイズは抗議の声を上げる。 「やめてよ! い、いい加減にしないと、ご飯抜くわよ!」 「おっと、やっと帰ってこれたのに、いきなりお仕置きは勘弁してほしいな!」 エツィオはおどけた様子で後ろに飛びのき、大仰に肩を竦めて見せた。 そんなエツィオを見て、ギーシュは呆れたように笑みを浮かべた。 「やれやれ、相変わらずだなきみは……、ところでエツィオ」 「ん?」 「きみ、今までアルビオンにいたんだよな? 最近、学院でアルビオンの噂をよく聞くんだ。なんでも敵に寝返ったワルド子爵が暗殺されたとか……」 その言葉に、ぽかぽかとエツィオを殴りつけていたルイズの手が止まった。みると少し心配そうな表情でこちらを見つめている。 「ああ……、その噂なら、向こうでも聞いたよ、それが?」 エツィオは何食わぬ顔で首を傾げてみせる、あまりにあっさりしたエツィオの反応にギーシュは少し戸惑ったように頭を掻いた。 「え? あぁ、いやその……もしかして『アルビオンの死神』は……きみ……なのかな? ってさ、アハハハ……そんなわけない……よな?」 なんだか言いにくそうに首を傾げるギーシュに、エツィオの口元が軽く綻ぶ。 「まさか、俺なわけないじゃないか、俺はメイジじゃないんだぞ?」 「で、でも噂によると、『アルビオンの死神』は平民のアサシンだって……」 「ギーシュ、買い被りすぎさ、俺にそんなこと出来ると思うか? あいつを追い払うだけで精いっぱいだったっていうのにさ!」 「だ、だよな! やっぱりぼくの思い違いだったようだな、うん」 ギーシュは納得した様子で、うんうんと頷いて見せた。 そんなギーシュに、エツィオは笑みを浮かべながら、肩をぽんと叩いた。 「そうさ、ま、それはとにかくアルビオンじゃ助かったよ、俺達が生きて戻れたのは、お前のお陰だ。ありがとう、ギーシュ」 「は、はは、いやぁ、それほどでも……」 まっすぐなエツィオの言葉に、気を良くしたギーシュははにかんだ笑みを浮かべた。 それから胸ポケットの薔薇の造花を手に取ると、気を取り直す様にそれを口にくわえた。 「なぁに、気にすることはないさ、エツィオ! 友の危機に力を貸すは貴族の義務だからね! またぼくの力が必要な時はいつでも声をかけてくれたまえ! このギーシュ・ド・グラモン、友の為にいつでも力を貸そうじゃないか!」 「ああ、頼りにしてるよ」 「それじゃ、ぼくはこれで失礼するよ、また後でな」 やや芝居がかかった口調でそう言うと、ギーシュは意気揚々と去って行った。 そんな彼を見送りながら、エツィオは少々困ったような表情で肩を竦めた。 トリステイン国内にも、それなりに噂が広がっているとは言え、まさかギーシュに正体を感づかれるとは思っていなかったのだ。 「まいったな……」 「どうするの? ギーシュでも薄々気づいてたわ。多分、キュルケやタバサもあんたを疑ってるかも……」 「うーん、彼女らにも、なんとかシラを切りとおしてみるよ……。さ、席に着こう」 ルイズの席に辿りついたエツィオは、ルイズに命じられるまでもなく、すぐに椅子を引き、彼女を座らせる。 そしてふと床に目をやると、そこにはスープの皿が無かった。 それは数週間姿を消していたエツィオが、昨日急に戻ってきたために、食堂に連絡が行き届かず、彼の食事を用意していなかったのである。 まぁ、無理もないか。とエツィオが肩を竦めながらルイズをちらと見ると、ルイズはなぜか頬を染め、そっぽを向いたまま言った。 「今日からあんた、テーブルで食べなさい」 「いいのか?」 エツィオは少し驚いたようにルイズを見つめる。 「いいから、ほら、座って。早く」 「それじゃ、お言葉に甘えて」 そう言いながらエツィオがルイズの隣の席に腰かけると、いつもそこに座っているマリコルヌが、またまた現れ、抗議の声をあげた。 「おい、ルイズ、そこは僕の席だぞ、使い魔を座らせるなんて、どういうことだ」 ルイズはきっとマリコルヌを睨んだ。 「座るところがないなら、椅子を持ってくればいいじゃないの」 「ふざけるな! 平民の使い魔を座らせて、僕が椅子を取りに行く? そんな法はないぞ! おい使い魔、どけ! そこは僕の席だ! そしてここは、貴族の食卓だ!」 ふとっちょのマリコルヌは勢いに任せ、胸を逸らせて精いっぱいの虚勢を張った。ちょっと震えている。 ギーシュを倒し、あのフーケを捕縛したエツィオはなんと、伝説の使い魔らしい、ということは既に学院中の噂になっているのだった。 そんなエツィオだったので、マリコルヌはやや冷や汗をかきながら文句を言った。 仕方ないとばかりに、エツィオがルイズへと視線を送ると、ルイズはエツィオの裾を引っ張っている。席を譲る必要はない、と言いたいようだ。 座ったまま何も言い返してこないエツィオを見て、調子に乗ったのか、続けてマリコルヌが口を開いた。 「おい! 聞こえないのか! もう一度言うぞ! どけ! 平民の――」 「ねぇ聞いた? アルビオンの噂!」 「聞いた聞いた! アサシンの噂でしょ?」 その時だった。不意に、近くのテーブルから、女生徒達の話声が聞こえてきた。 少々大きい話声は、その話題の関心の高さを物語っているようだ。 その声の大きさに、否でも意識はそちらに向いてしまう。恰好がつかなくなったマリコルヌは少々苦い表情でそちらを睨みつける。 だが女生徒達は、そんなマリコルヌにお構いなしに、噂話を続けた。 「そう! 『アルビオンの死神』! また出たんですってね! なんでも、ロンディニウムの広場に堂々と現れて、その場にいた衛兵隊を血祭りに上げたらしいのよ!」 「嘘でしょ? だってアサシンは平民だ、って聞いたわよ?」 「それが、平民のくせに、ものすごく強いらしいの、目にもとまらぬ速さで獲物の首を掻き切るんですって!」 「それだけじゃないわ、ハヴィランド宮殿ってあるでしょ? そこにある皇帝の寝室に忍び込んで、皇帝の枕に短刀を突き立てたとか……、 部屋の机の上には毒入りのワインボトルが置いてあったそうよ」 「まぁっ! なんだか怖いわ……! ねぇ、そのアサシンって、どんな格好してるの?」 「なんでも、フードを目深に被った、白ローブの若い男らしいわ、左肩に血塗れのアルビオン王家のマントを纏ってるそうよ」 「ね、ねぇ……。そ、それってまさか……、あれ……」 その言葉と共に、ざわっ……、と、食堂全体がざわめき、その場にいた生徒達が、一斉にエツィオを向いた。 今は被ってはいないが、フードの付いた白のローブ、そして、左肩に纏ったマント……。噂に聞くアサシンの特徴と一致している。 だが、当のエツィオは、肩を竦め、自分ではない、と言わんばかりに、澄ました顔でひらひらと両手と一緒に首を横に振って見せる。 「ま、まさかね……」 「そ、そんなこと、あるわけないわよね……」 女生徒達は、そう呟くと、エツィオから視線を外す。 まさかこんなところに、アサシンが潜んでいる筈が無い、しかもそれが、ギーシュを倒したとはいえ、 魔法が出来ないことで有名なゼロのルイズの使い魔ならばなおさらである。 それを皮切りに、静寂に包まれていた食堂は徐々に普段の活気を取り戻していった。 エツィオは小さくため息をつくと、何の話だったかな、と再びマリコルヌの方を向く。 だが、そこには既にマリコルヌの姿はなかった、見ると食堂の隅へ逃げるようにすっ飛んで行くのが見える。どうやら椅子を取りに行ったようだ。 まぁいいか、とエツィオが椅子に座り直すと、ルイズが周囲に聞こえないように小声で尋ねてきた。 「ねえ、あんた……、そんなことまでやってたの?」 「どうだったかな? いろいろやったからな、覚えてないよ」 心配そうな面持ちのルイズに、エツィオは首を傾げる。 「ま、まさか……いくらあんたでも……ね」 それを聞いたルイズは、ぎこちない表情で呟く。 そうこうしているうちに食事の前の祈りが行われ、朝食が始まった。 ルイズが目の前の料理を口に運ぼうとした、その時、エツィオが低い声でぽつりと呟いた。 「皇帝か……、奴はいずれ消す、必ずな」 「えっ?」 不穏な言葉に、思わず手を止めルイズはエツィオを見つめた。 「んっ? あ、ああいや、なんでもない、冗談だよ、ははは」 視線に気が付いたエツィオはにこやかな笑みを浮かべ、微笑む。 それを見たルイズは、ぞくり、と背筋が寒くなるのを感じた。 嘘だ、こいつ、冗談で言ってない。だって目が笑ってないもん。 「と、とにかく、あんた、学院じゃそのローブ、着ない方がよさそうね。やっぱりそれ、目立つわよ」 「うーん……そうだな、これからは出かける時だけにするよ」 エツィオはちょっと考えた後、少しだけ惜しむように自分のローブを見つめる。 それでも着るんだ……、と、少し呆れたように、ルイズはため息を吐いた。 「とりあえず、今日は授業にはついてこなくていいわ、みんなに詮索されると困るでしょ? 一日自由ってことにしてあげる」 コルベールの研究室は、本塔と火の塔に挟まれた一角にあった。 見るもボロい、掘立小屋である。研究室、あるいはアトリエという外観だけならまだ、レオナルドの工房の方が様になっているだろう。 その横には最近取り付けられたであろう小型の炉が、でんと鎮座している。 研究室の中では、何やらコルベールが思いつめたような表情で、作業を行っていた。 羊皮紙に描かれた設計図を参考に、慎重に部品を組み立て、動作を確かめる。 「できた……」 やがて、組み立てていた物が完成したのか、コルベールが大きく息を吐く。 作り上げた"それ"を手に取り、設計図と見比べながら、達成感に満ちた表情で大きく頷く。 だが、その達成感に満ちた笑顔はすぐにかき消える、それからコルベールは苦い表情を浮かべると深く考え込み始めてしまった。 その時、研究室のドアがノックされた。 「どうぞ」 「失礼します、シニョーレ」 その音で我に返ったコルベールは、はっと顔を上げると、ノックをしている人物に入室を促す。 ドアを開け、入ってきた人物……エツィオを見て、コルベールは表情をほころばせ、両手を広げた。 「おおっ! エツィオくん! 戻ったのかね!」 「ええ、つい先ほど、ご心配をおかけしたようで申し訳ない」 「いやいや、オールド・オスマンから事情を聞いた時は心配したが、無事帰ってきてくれてよかった!」 エツィオと握手を交わすと、コルベールは積み上げられたガラクタの中から椅子を引っ張りだし、エツィオに勧めた。 エツィオがそれに腰かけると、コルベールは実験用のランプで沸かしていたケトルを手に取り、取りだしたカップに中身をなみなみと注いだ。 黒い液体がカップに注がれると、よい香りが湯気と共に部屋の中に広がってゆく。 コルベールはにこにことほほ笑みながら、エツィオにそれを差しだした。 「きみもどうかな? 東方の商人から仕入れた珍品でね。『コーヒー』というんだそうだ」 「『コーヒー』ですって? ……では、ありがたく頂きます」 カップを受け取ったエツィオは、一口それを飲むと、その味に思わず顔をしかめた。 「むっ……、随分と苦いのですね……!」 「ははは、だろう? 私も最初は驚いたよ、だが今じゃ、この苦さが病みつきでね」 「なるほど。何か足すと飲みやすくなるかもしれませんね、例えば……ミルクや砂糖を」 「ほう、それは随分といけそうだな。……さて、早速だが、『真理の書』の解読が進んだよ、受け取ってくれ」 「ありがとうございます、シニョーレ」 コルベールから羊皮紙を受け取ったエツィオは、一通りそれに目を通す。 だが、読んで行くうちに、ページの文が繋がっていないことに気がついた。 どうやらこの男は、自分の興味があるページ、つまり技術や設計図が書かれているページを優先して読み解いているのだと、エツィオはあたりをつけた。 できれば手掛かりが記されているであろう日記の部分を優先的に読み解いてほしいものだが、協力してもらっている手前、強く言うのもなんだか気が引けてしまう。 「これは……手製爆弾か、……俺にも作れるかな」 ……それに、こう言った、この先、役に立つであろう技術のページまで解読しているのだから、尚更文句が言いにくい。 全く仕方が無いな、と内心苦笑しつつエツィオがぱらぱらと羊皮紙をめくっていると、ふと目を送った先、彼の机の上に置いてある物に気がついた。 深紅のフェルトの上に置かれたそれは、エツィオにとって見覚えのあるものだった。 「シニョーレ、それは……」 「ああ、そうだ、きみに是非見せようと思っていたのだ」 コルベールはエツィオに、先ほど出来たばかりのそれを手渡した。 「アサシンブレード?」 やはりというべきか、それはエツィオが身につけているアサシンブレードそのものであった。 試しに作動させるためのリングを引っ張ると、勢いよく刃が飛び出した。 「あなたがお作りに?」 「ああ、きみのその剣と設計図を頼りにわたしが作ったものだ、再現には苦労したよ! なによりその素材となる合金! 素材自体が希少な上に、今のハルケギニアの技術ではどう頑張っても作れなかったんだ。精錬に要する冶金技術が高すぎてね。 そこでだ! この研究室の前に小さな炉があっただろう? アルタイルの文献を元にわたしが……」 「な、なるほど……」 よくぞ気がついたとばかりに、目を輝かせながら説明を始めるコルベールに、エツィオは苦笑を浮かべながら相槌を打つ。 聞いてもいないのにこうやって説明してしまうのは、教師、というよりも研究者としてのプライドだろうか。 こういうところもレオナルドとよく似ているなと、エツィオは小さく肩を竦める。 しかしよく見ると、エツィオの物とは違い、なにやら刃の下に見慣れぬ機構が備え付けられていた。刃の形状もどことなく違って見える。 「シニョーレ、この下に付いている物は? 私の物と少々違うようですが」 「あ、あぁ、それかね?」 エツィオがそれを指摘すると、コルベールは言おうか言うまいか、迷ったような仕草を見せたあと、口を開いた。 「実はな、エツィオくん、それは……『銃』なんだ」 「銃ですって? こんなに小さいのに?」 「というより、銃の機構を備えたアサシンブレード、と言った方がいいかもしれないな」 それを聞いたエツィオは、驚いたように手元の"銃"を見つめた。 エツィオの知る銃はもっと大型で、それこそ担いで運用するようなものだったはずだ。 「この間、『真理の書』に描かれた設計図を見せただろう? わたしも好奇心を抑えきれなくてね、彼の理論と設計を元に、再現したんだ」 そう呟くコルベールの表情は、新兵器を開発したという喜びに満ちたものではなく、禁忌に触れてしまったと言わんばかりの、暗く、沈んだものだった。 「……コルベール殿、どうかしたのですか?」 「あ……いや……なんでもない、なんでもないよ」 そんなコルベールの様子を疑問に思ったエツィオが声をかける、 コルベールは力なく首を振ると、思いつめたような表情で俯いた。 「いや、きみには言わなくてはならないな、この銃が……いや、この『真理の書』が、どれだけありえないものなのかを」 そう言いながらコルベールが顔を上げる、そして重大な秘密を分かち合う様に、口を開いた。 「よいかな、エツィオくん、アルタイルの考案したこの銃は、進みすぎているのだよ」 「進みすぎている、とは?」 「これを見たまえ、最近流通し始めたフリントロック(火打ち)式の拳銃だ」 コルベールはそう言うと、引き出しから、一丁の銃を取り出した。 エツィオにとっては見慣れない構造をした銃である。どうやらこの世界の銃はエツィオの知る銃の構造とは違うようだ。 「火打ち式……ですか? マッチロック(火縄)式ではなく?」 「そうだ、最近発明されたんだ、開発の参考になればと思ってね、買ってきたんだよ」 「なるほど……それで、この火打ち式とやらと、アルタイルの銃、なんの関係が?」 エツィオが首を傾げる。 しばしの沈黙の後、コルベールは打ち明けるように呟いた。 「アルタイルの考案したこの銃も、火打ち式なんだ。信じられるかね? 彼が考案したこの銃は、本来辿るべき進化の過程を無視して誕生しているのだよ。 作った身だからこそわかる、この三百年前に考案された最古の銃は、最新の拳銃よりずっと小型で、精度と威力も射程も、従来のそれを遥かに上回っているんだ」 「ということは……これは」 「そう、このアルタイルの銃は、三百年前、『突如として現れた』。……三百年前、ハルケギニアには銃という概念は存在しなかった、 いや、それどころか、この書では、彼のいた世界ですら、存在していなかったとある。だがアルタイルはこの銃を考案……いや、知識を得ていたのだ」 コルベールは『真理の書』を手に取ると、苦悩が刻まれた、深いため息を吐いた。 「そもそも銃という存在自体、どこから来たのだ? 誰が考えた? 一体誰が最初にそんな物を作ろうと考えたのだ?」 「あの……コルベール殿?」 そこでコルベールは、エツィオが心配そうな表情で見つめているのに気がついて。 「あ、ああ! すまない!」と頭を掻いた。 「大分お疲れの様だ、しばらく休んだほうがよろしいのでは?」 よく見ると顔色が悪い、どうやら彼は、喜々として写本解読に挑むレオナルドとは違い随分ナイーブな性格の様だ。 それだけを見ても、アルタイルの書がコルベールに与えた衝撃は相当なものだったということは、想像に難くはなかった。 コルベールは、そうだな……、と力なく呟くと、椅子に深くもたれかかった。 「知れば知るほど……、悲しみはいや増す……。きみのところの、昔の哲学者の言葉らしいな。 アルタイルも、私と同じ心境だった……いや、きっとそれ以上の苦悩だったのだろう……」 「我が心は英知を求めたが……」 エツィオが後を引き継ぐように呟くと、コルベールははっとした表情でエツィオを見つめた。 エツィオは俯いたまま、ぽつぽつと言葉を続ける。 「……人の愚かさを知るだけだった、それは風を追うかの如くに虚しい探究、英知がもたらすは悲嘆のみ、真実を知れば知るほど、悲しみはいや増す……」 それを聞いたコルベールは今にも泣き出しそうな、悲しそうな表情になった。 「コヘレトの言葉です。確か、このような内容だったかと」 「悲嘆のみ……か、残念なことだが、それは……正しいのだろうな……」 手元の銃の設計図を見つめながら、思いつめたような表情でコルベールは呟く。 「『真理の書』……、これは、本当に世界を一変しかねないかもしれない……」 「と、言いますと?」 エツィオは怪訝な表情でコルベールを見つめた。 「……『進みすぎている』んだよ、この書物に書かれていることは。 技術、知識、そして彼の持つ思想……。そのいずれもが、我々が得るには早すぎるものばかりなのだ。 数十年、或いは数百年は進んでいると言っていいだろう。 その銃がまさにそれだ、こんなものが出回れば……、必ずや新たな悲嘆を生むだろう」 とは言え、銃なのだから、それも当然と言えば当然なのだが……。とコルベールは小さく呟く。 それから、部屋の隅に置かれた、つい最近発明したばかりの装置、『愉快なヘビくん』を見つめる。 「これもいずれ……悲嘆を生むのだろうか? 知識も突き詰めれば狂気でしかないのか?」 「どうか、お気を確かに」 苦しそうに呟くコルベールに、流石に心配になったエツィオは、肩に手を置き声をかけた。 正直なところ、発狂されでもしたら非常に困る。 「しかし……しかしだ」 コルベールは顔を上げると、エツィオを見つめた。 「なあ、エツィオくん、私には……、信念があるんだ」 「信念、ですか?」 ああ、とコルベールは頷くと研究室内を見まわした。 外観こそみすぼらしい掘立小屋だが、ここには彼が先祖伝来の屋敷や財産を売り払って手に入れた、様々な道具や秘薬で溢れている。 それらを見つめながら、コルベールは少々自嘲気味な笑みを浮かべ呟いた。 「ご覧の通り、私の趣味は研究でね、主に魔法やそれを利用した新しい技術について研究しているんだ。 そんなわけで、周りからは、変人とかよく言われている。そんなわけで未だに嫁さえ来ない」 だろうな。とエツィオは内心頷いた。 フィレンツェに似たような奴がいるせいで、彼と言う人物がなんとなく理解できる。 おそらくは、女性関係にはあまり興味が無いのだろう。研究一筋、レオナルドもそうだった。 そんな事を考えるエツィオに、コルベールは話を続けた。 「……私の系統は『火』でね。『火』系統が司るは『破壊』、それゆえ戦いこそが『火』の本領だというのが、我々メイジ達の定説だ。 だけど私は、そうは思わない。『火』が司るのは破壊だけ、というのは寂しいと考えている」 俯いていた顔を上げ、コルベールはエツィオを見つめた。 「そう、魔法はいわば『英知』だ、故に伝統に縛られず、様々な使い方を試みるべきだ。 本来破壊に用いられる『火』の系統も、使いようによっては、我々の生活をより豊かにし、素晴らしいものを授けてくれる、そう信じているんだ。 ……その『英知』がもたらすものは、決して悲嘆などではない、そうだろう?」 「ええ、その通りです。そのためにも、知識の炎を絶やしてはなりません」 「知識の……炎?」 「大昔の学者が言った例えですよ、なんでも、知識を火に例えたのが始まりだとか、集まれば集まるほど、大きく、激しく燃え上がる、それが知識の炎なのだとか。 最も、これはレオナルド……友人の受け売りですがね」 「そうか……知識は炎か……! 炎は知識の象徴……! ああ! なんと素晴らしい言葉なのだ!」 エツィオの言葉に、コルベールは嬉しそうに叫んだ。 「エツィオくん!」 「は、はい……」 コルベールはぐいと顔を近付けると、心底うれしそうにエツィオの手を取り、固く握りしめる。 「きみには、礼を言わなくてはな。ありがとう、きみと話したおかげで、随分楽になれたよ」 「お役に立てて、幸いです、マエストロ」 つい先ほどまでの消沈っぷりからは考えられないほどのコルベールに、エツィオはにこりと魅力的な笑みを浮かべて言った。 余程嬉しかったのだろう、コルベールはニヤけた顔のまま、エツィオの肩をバンバンと叩いた。 「こ、こら! マエストロだなんて、やめてくれたまえ! 私はそんな大それたものではありませんぞ!」 「ちょ、ちょっとコルベール殿! こ、これ以上はご勘弁を!」 叩かれた肩がヒリヒリと痛む、たまらずエツィオは音を上げた。この男、華奢に見えて随分と力が強い。 そんなエツィオに気が付いたのか、コルベールは「あ、ああ、すまん!」と、頭をかいた。 「随分と、力がお強いのですね、少し驚きましたよ」 「ん、あ、ああ、昔、ちょっと……な」 コルベールの表情が僅かに曇る、それを見たエツィオは、すぐに触れられたくない過去の類であることに当たりを付ける。 折角持ち直したコルベールの機嫌を損ねないように、エツィオは別な話題を切り出すために、『銃の設計図』が描かれた写本の断片と、『真理の書』の頁を手に取った。 「それはそうと……、コルベール殿、この設計図と写本なのですが……、現物はそれだけですか?」 「ん、ああ、完成品はそれだけだ、それがどうかしたかね?」 設計図を手にしたエツィオに、怪訝な顔でコルベールは尋ねる。 「なるほど……では」 そう言うや否や、エツィオは首を傾げるコルベールの前で、銃の設計図とその写本を、ランプの火にかざした。 あっという間に火は設計図に燃え移り、灰へと変える。 エツィオの突然の行動に、コルベールは驚いた様子で立ち上がる。 「なっ、なにを!」 「コルベール殿、これは人の手にあるべきものではありません、少なくとも今は。……秘密はここで生まれ、そして死にました」 エツィオは、どこまでも冷静な声で、諭す様に言った。 コルベールも、自身の解読したものの重要性を知っているせいか、すぐに口を噤み、再び椅子に腰かけた。 「そう……だな……、もとよりその『真理の書』はきみのためのものだ、私にどうこう言う権利はない」 「感謝します」 「いや、礼を言うのはこちらだよ、私では……おそらくこの書物を処分できなかっただろう」 コルベールは深くため息をつくと、まだ解読されていない『真理の書』の頁の束を見つめる。 エツィオもそれを見つめながら、小さく肩を竦めた。 「しかし、ここまでのものが記されているとは、その最後のページには何が書かれているのでしょうか。それこそ『この世の真理』が書かれているのかも……」 「うむ、それなんだがな」 コルベールは『真理の書』の一頁を取り出すと、エツィオに手渡した。 コルベールは、やはりというべきか、既に『真理の書』の最後の一枚に目を通していたようだ。 「最後のページに書いてあるのはこの奇妙な図だけなんだ」 「図、ですか?」 「何かの記号……、あるいはシンボルのようなものだと思うのだが……、蝶が翅を広げたような……。なんなのだろうな?」 エツィオが目を通すと、成程、その『真理の書』の頁に書かれていたのは、何重もの線が折り重なったかのような、奇妙な模様であった。 それはまるで、コルベールの言う様に、蝶が翅を広げたような姿をしている。 「きみ、これが何かわかるかね?」 「いや……、ん……? 何か書いてあるな……、失礼、ペンを」 エツィオはペンを受け取ると、"タカの眼"を用いて、余白に浮かび上がる、見えざる文字を書き写してゆく。 そしてあらかた写し終わると、それをコルベールに手渡した。 「これはなんだ……? 数式か? ……ふむ? むむむ? 見慣れない文字だな」 「これは……、アラビア語? ……だめだ、お手上げです、だとしたら私にも読むことが出来ないようだ」 「うーむ……気にはなるが、手出しができないようだな。この数式も、なにがなんだか……」 二人でその頁を覗き込み調べるものの、何の手がかりも得られず、やむを得ず匙を投げる。 「だとしたら、今の我々には関係のない物でしょう、誰にもわからぬものを残す必要がありませんからね」 名残惜しそうに、その頁を見つめるコルベールに、エツィオは少々呆れたように肩をすくめて見せる。 あれほど知識の在り様について迷っていたクセに、いざ目の前に未知なる英知が現れると、夢中になって追い求めてゆく。 彼はやはり、根っからの研究者なのだろう。 それから窓の外を見つめると、すっかり日も傾いている事に気が付いた。 「さて、コルベール殿、そろそろ私は失礼します」 「あ、ああ、すまなかったね、いろいろ時間を取らせてしまって」 「とんでもない、とても有意義な時間でした。……それと、この銃なのですが」 エツィオは机の上に置かれたアサシンブレードを見つめる、設計図を処分した以上、これもまた処分、あるいは、人の手に触れないようにしなくてはならない。 だがコルベールは、それを手に取ると、エツィオに手渡した。 「その銃はきみが使うべきだ、エツィオくん」 「よいのですか?」 「もちろんだ、それはきみのためにアルタイルが残したものだからな。それに……」 コルベールは言葉を切ると、まっすぐにエツィオの目を見つめた。 「きみならば、使い方を間違わない、そう信じている」 「……ありがとうございます、コルベール殿。これが我が助けとならんことを」 エツィオは左手の籠手を取り外し、コルベールの作り上げた、新たなアサシンブレードを取りつける。 小指のリングを引くと、勢いよく刃が飛び出し、固定された。 コルベールは引き出しの中から小さな革袋を取り出すと、エツィオに差しだした。 「火薬と弾丸だ。弾丸は、既存の物と同じものが使えるようになっている、あまり多くはないが、持って行くといい」 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8253.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 船員達の声と眩しい光でエツィオは目を覚ました。青空がどこまでも広がっている。 舷側から下を覗き込むと、白い雲が広がっている。船は雲の上を進んでいた。 「アルビオンが見えたぞー!」 鐘楼に立っていた見張りの船員が大声をあげる。 その声に下を流れる雲を見つめていたエツィオが顔を上げ、船の前方へと顔を向け、息をのんだ。 巨大な……まさに巨大としか言いようのない光景が目の前に広がっていた。 雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。大陸ははるか視界の続く限り延びている。 地表には山がそびえ、川が流れていた。 「驚いた?」 いつの間にか横に来ていたルイズがエツィオに言った。 「はは……何と言えばいいのか……もう驚きで言葉が出ないな」 エツィオは苦笑しながら呟いた。 「浮遊大陸アルビオン。ああやって、空中を浮遊して、主に大洋の上をさまよっているの。 でも月に何度かハルケギニアの上にやってくる。大きさはトリステインの国土くらいはあるわ。通称『白の国』」 「『白の国』?」 ルイズは大陸を指さした。大河から溢れた水が空に落ち込み、白い霧となって、大陸の下半分を包んでいる。 その霧がやがて雲となり、ハルケギニアの大地に雨を降らせるのだとルイズは説明した。 その時、鐘楼に上った船員が、大声をあげた。 「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」 エツィオは言われた方向を見た。 なるほど、船が一隻近づいてくる。エツィオ達の乗り込んだ船より、一回りも大きい。 舷側に開いた穴からは、大砲が突き出ている。 ルイズが眉を顰めた。 「いやだわ。反乱勢……、貴族派の軍艦かしら」 「……嫌な予感がする……ルイズ、俺から離れるな」 後甲板でワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指した方角を見上げた。 黒くタールが塗られた船体は、まさに戦う船を思わせる。こちらにぴたりと二十数個も並んだ砲門を向けている。 「アルビオンの貴族派か? お前達のために荷を運んでいる船だと、教えてやれ」 見張り員は指示に従い手旗を振った。しかし、何の返信もない。 副長が駆け寄ってきて、青ざめた顔で船長に告げる。 「あの船は旗を掲げておりません!」 「してみると、く、空賊か!」 船長の顔も、みるみる青ざめていく。 「間違いありません! 内乱の影響で、活動が活発化していると聞き及びますから……」 「逃げろ! 取り舵いっぱい!」 船長は船を遠ざけようとしたが、時既に遅し。黒い船すでに並走を始め、脅しの一発を、エツィオ達の船の前方に向け放った。 ぼごん! と鈍い音がして、砲弾が雲の彼方へと消えてゆく。 黒船のマストに、するすると四色の旗色信号が登る。 「停船命令です、船長。」 船長は苦渋の決断を迫られた。この船だって武装がないわけではない、しかし、 あの黒い船に比べたら役に立たない飾りのようなものだ。 助けを求めるように、船長は隣にたったワルドを見つめる。 「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」 ワルドは落ち着き払って言った。 船長は「これで破産だ」と呟き、停船命令を下した。 「裏帆を打て。停船だ」 いきなり現れて大砲を放った黒船と、行き足を弱め、停船した自船の様子に怯えて、ルイズは思わずエツィオに寄り添った。 不安そうに、エツィオの後ろから、黒船を見つめる。 「空賊だ! 抵抗するな!」 黒船から、メガホンを持った男が大声で怒鳴った。 「空賊ですって?」 ルイズが驚いた声で言った。 黒船の舷側に弓やフリント・ロック銃をもった男達が並び、こちらに狙いを定めた。 鉤の付いたロープが放たれ、エツィオ達の乗った船の舷縁に引っかかる。 手に斧や曲刀等の得物を持った屈強な男達が、船の間に張られたロープを伝ってやってくる。 その数、およそ数十人。 「……マズいな」 その様子を見つめて、エツィオが呟いた。 「大丈夫だ……君に手を出させはしない」 不安そうに見つめるルイズに、エツィオは優しく声をかけると、再び乗り込んできた男達に視線を向ける。 得物を構える水兵に混じり、メイジの姿も散見される。そのうちの一人が呪文を放つのが見えた。 その瞬間、前甲板に繋ぎとめられ、ギャンギャン喚いていたワルドのグリフォンがばたりと甲板に倒れ、寝息を立て始める。 どうやら強制的に眠らせる呪文のようだ。 数十人の水兵達にメイジ、そしてこちらにぴたりと狙いをつけている数十門の大砲……、抵抗することはまずできないだろう。 「無事かね?」 「……子爵殿」 エツィオが戦力を分析しているその時だった。後甲板にいたワルドが現れ、エツィオに声をかける。 「……状況はこちらが圧倒的に不利だ。抵抗はしない方が身のためだな」 「わかっています……ですが……」 「だが?」 「ルイズにもしものことがあれば、その限りではありません」 「エツィオ……」 最悪の事態を想定したのだろう。エツィオが苦々しい表情で呟いた。 どすんと音を立て、甲板に空賊たちが降り立った。 その中から、派手な格好の一人の空賊が、一歩前に出た。 元は白かったのであろう、グリース油で汚れて真っ黒になったシャツをはだけ、そこから赤銅色に日焼けしたたくましい胸板が覗いている。 ぼさぼさの長い黒髪は、赤い布で乱暴にまとめられ、無精髭が顔中に生えている。 腰布に曲刀と小型のフリントロック銃を差し、ご丁寧にも左目に眼帯を巻いていた、いかにもといった風体のこの男が、空賊の頭のようであった。 「船長はどこでえ」 荒っぽい仕草と言葉遣いで、辺りを見渡す。 「わたしだが」 震えながら、それでも勢一杯の威厳を保とうと努力しながら、船長が手を上げた。 頭は大股で船長に近づき、顔をピタピタと抜いた曲刀で叩いた。 「船の名前と、積荷は何だ?」 「トリステインの『マリー・ガラント』号、積荷は硫黄だ」 空賊たちの間からため息が漏れる。頭の男はにやっと笑うと、船長の帽子を取り上げ、自分が被った。 「船ごと全部買った。代金はてめぇらの命だ」 船長が屈辱で震える。それから頭は、甲板に佇む、ルイズとワルドに気がついた。 「おや、貴族の客まで乗せてるのか」 ルイズに近づき、顎を手で持ち上げた。 「こりゃあ別嬪だ、お前、おれの船で皿洗いをやらねぇか?」 男達は下卑た笑い声をあげた。ルイズはその手をぴしゃりとはねつけた。 燃えるような怒りを込めて、男達を睨みつける。 「下がりなさい、下郎」 「驚いた! 下郎ときたもんだ!」 男は大声で笑った。その時である、淡々と空賊を見つめていたエツィオが、何かに気がついたのか不意に首を傾げた。 「ん? お前……」 「あン? なんだ若いの」 首を傾げるエツィオに頭が凄みながら近づく。 するとエツィオは小さく鼻で笑うと、腕を組んで言った。 「若いだって? おい、お前、俺と同じくらいだろう?」 「なっ……、何言ってやがる!」 「大体何だ? そのつけ髭とカツラは、全然似合ってないぞ、ちゃんと鏡でチェックしたのか? 地毛の金髪が覗いてるぞ」 「てっ、てめぇ! 黙りやがれ!」 「ぐぅっ! くっ……はっ……!」 その言葉に激昂したのだろう、頭は怒りに顔を真っ赤にし、エツィオの鳩尾に拳を叩きこんだ。 エツィオはたまらずに身をかがめ、苦悶に表情を歪めながら跪く、それを頭が突きとばすと、エツィオは派手な音を立てて倒れ込んだ。 「エツィオ! ……あんた! な、なにするのよ!」 「よすんだ、ルイズ!」 甲板に倒れるエツィオにルイズが駆け寄ろうとするも、ワルドに制止される。 空賊の頭はペッと唾を吐き捨てると、ルイズとワルドを指さして言った。 「てめぇら、こいつらも運びな、身代金がたんまりもらえるだろうぜ」 捕らえられたエツィオ達は、船倉に閉じ込められた。 『マリー・ガラント』号の乗組員達は、自分達のものだった船の曳航を手伝わされているらしい。 エツィオは剣と短剣、その他の装備を取り上げられ、ワルドとルイズは杖を取り上げられた。 したがって、鍵をかけられただけで、もう何もできない、杖のないメイジはただの人である。ルイズはあまり関係なかったが……。 周りには、酒樽やら穀物の詰まった袋やら、火薬樽、砲弾までもが雑然と置かれている。 ワルドは興味深そうにそれらを見て回っている。 そんな中、ルイズは、先ほど空賊に殴られたエツィオを見て、心配そうに呟いた。 「ねぇ大丈夫? エツィオ」 「ああ、すまないな、もう平気だよ、そこまでヤワじゃないさ」 「もう……なんであんな無茶したのよ……」 「はは……君に言われたくないな……」 エツィオは苦笑しながら呟くと、苦い表情で腕を組む。 「なあ、ルイズ、気高いのはいいが、時と場合を選んでくれよ、 こんなことは言いたくはないが、相手はならず者達だ、辱めを受けた揚句、殺されてしまっても、文句は言えないんだぞ?」 「む……、わ、わかってるわよ……」 「本当にわかってるのか? どうにもアテにならないな……」 エツィオは優しく微笑むと、ルイズの頭にぽんっと手を置いてくしゃくしゃと撫でる。 「や、やめなさいよ!」とルイズが怒ったようにその手を振り払った。 「ルイズ、ちょっといいか?」 「な、なに?」 その時である、エツィオは突然、ルイズの右手を取り、まじまじと見つめはじめた。 困惑するルイズをよそに、エツィオは右手の薬指に光る『水のルビー』をじっとみつめ、呟いた。 「やっぱりな……同じだ……」 「同じ……って、姫さまの『水のルビー』じゃない、これがどうしたの?」 「ルイズ、この『水のルビー』っていうのは、どこにでもあるようなものなのか?」 「あのね、失礼なこと言わないで、この『水のルビー』はね、トリステイン王家に代々伝わる由緒ある秘宝の一つなのよ」 「なるほど……、ということは、『水』の他にあるのか? たとえば、『風』とか」 「え、えと、たしかアルビオンの王室に『風のルビー』が代々伝わっていると聞くわ」 「……その『風のルビー』というのは……これのことか?」 それを聞いたエツィオは、苦い表情を浮かべると、懐から一つの指輪を取り出し、ルイズに見せた。 エツィオが取り出した指輪を見て、ルイズは目を丸くした。 「え? うそ……どうしてあんたが持って……っ!」 「しっ……静かに、外に聞こえる」 「どうしたんだルイズ?」 「子爵殿もこちらへ、相談したいことが」 驚愕のあまり、ルイズが叫ぶ、エツィオはすぐにルイズの唇に人差し指を当て、追及を中断させる。 突然叫んだルイズの様子に気がついたのか、船倉の中を見て回っていたワルドが近づいてきた。 人差し指が唇から離れると、ルイズは小さな声で訊ねた。 「……っ! ど、どうしてあんたがそれを持っているの?」 「正しくは、持っていたのは奴らの頭さ、君の顎を持った時、彼の手に光るこれを見つけた」 「ふむ、どうやってそれを掠め取ったのかね?」 「突きとばされた時ですよ、まんまと引っ掛かってくれました」 いたずらっぽく笑うエツィオに、ワルドとルイズは呆れたようにため息をついた。 この男、あの一瞬の隙を突き、頭の指から指輪を掠め取っていたのだ。 「なるほど、だからあんな挑発を……しかしよく気付かれなかったな」 「なに、逆上した人間ほど、注意力が散漫になるものです、今頃大騒ぎでしょう」 「しかし、それは本当に『風のルビー』なのか? そう思う根拠はどこにあるのかね?」 「あくまで推測です、私がこれに気がつくことができたのは、その『水のルビー』と同じに視えただけですので」 「なるほど、その眼か。……まるで君の眼は、何物も見逃さぬ"タカの眼"だな」 「"タカの眼"……ですか」 呪文の詠唱に続き、ほんの些細なことすら見逃さぬエツィオに、ワルドが感心したように呟く。 「どうかしたのかね? おかしなことでも言ったかな?」 「いえ、そう呼び名を頂くのは初めてのことですので……ですが、気に入りました、これからはそう呼ぶことにしましょう」 エツィオは、小さく笑みを浮かべた。 ワルドは腕を組むと、苦い表情で呟く。 「しかし、まだ確証がないとはいえ、奴らがこれを持っていると言うことは……少々雲行きが怪しくなってきたな」 「え……?」 「ともかく、今は様子を見るべきかと。幸いこちらの目的は奴らに知られていません、貴族派に引き渡されると言うことはないでしょう。 どちらにも属していない中立の立場だと言えば、少なくとも奴らは目先の利益……身代金の確保を優先するでしょう」 「だろうな」 「子爵殿は精神力の回復にお努めを、私は子爵殿の回復を待ち、杖を取り戻します」 「杖を取り返すと言うのかね? 君も武器を奪われているだろう?」 「いいえ、子爵殿、武器は奪われておりません」 エツィオはそこまで言うと、左手を掲げ、小指のリングを引いた。 左手の内側から、鈍い光を放つ隠し短剣が、勢いよく飛び出し、固定される。 「それはっ……!」 「連中も、これには気がつかなかったようです」 「隠し短剣……そんなものを……」 それを見たワルドとルイズが驚いたように見つめる。 「入ってきた人間を脅す位なら可能です、そいつに吐かせようと考えています」 「……なるほど」 「杖を取り返し次第、私が先行し出来る限り連中を消していきます、その後、子爵殿と共に船の制圧にかかる……。無論、ルイズを守りながらということになりますが。 戦闘員は少なく見積もっても三十人程度、さすがにこの船の中、強力な魔法を放つわけにもいかないでしょう、しかしこちらは違う、遠慮なく放てます」 「本当に成功するのかね?」 「……成功する保証はありません、しかし、状況が状況です、頭を押さえれば奴らを制圧することも可能かと」 「ふむ……君の言いたいことはわかった、……しかしな」 「待った、誰かが来る、とにかく、今は様子を見ましょう」 ワルドがそう言おうとした、その時であった、扉の向こう側から誰かが近づいてくるのを感じたエツィオが、小さく手で制し、風のルビーをポケットにしまい込んだ。 ややあって、扉が開き、太った男が、スープの入った皿を持って入ってきた。 「飯だ」 エツィオが立ち上がり、受け取ろうとしたその時、男は皿をひょいと持ち上げた。 「質問に答えてからだ、お前ら、アルビオンに何の用だ?」 「旅行よ」 ルイズは腰に手を当てて毅然と答えた。 「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行? 一体何を見物するつもりだ?」 「そんなこと、あんた達に言う必要はないわ」 「へ、連れかれる時は怖くて震えてたくせに、随分強がるじゃねぇか」 ルイズは顔をそむけた、空賊は笑うと、皿と水の入ったコップを寄越した。 エツィオはそれを受け取り、ルイズの元へ持って行った。 「ほら」 「あんな連中の寄越したスープなんて飲めないわ」 ルイズは機嫌を悪くしたのかそっぽを向いた 「食べないと、体がもたないぞ」 ワルドがそう言うと、ルイズはしぶしぶと言った顔でスープの皿を手に取った。 ワルドとルイズの二人がスープを飲んでいると、エツィオは不意に扉に向かい、数回ノックする。 すると看守の男がむくりと立ち上がった。 「なんだ?」 「少し聞きたいことがある、今、アルビオンはどうなっている」 「そんな事聞いてどうするんだ?」 「ただの世間話さ、冷たくしないでくれよ」 「ふん、まだ戦争中さ、王党派の連中は国の端まで追い詰められている、風前の灯ってやつさ、貴族派の勝利は間違いないだろうな」 「まだやってるのか、……それで、お前達はその戦に参加したのか? みたところ貴族派に与しているようだが」 エツィオが訊ねると、看守の男は笑いながら答えた。 「おいおい、俺達は空賊だぜ? 貴族派の皆さんのおかげで商売させてもらってるとは言え、 戦に参加するほど酔狂じゃねぇや、いわば対等な関係で協力しあっているだけさ」 「……。なるほどな、商売の調子はどうだ? なかなか儲かっているみたいじゃないか、やはり外国の商船が狙い目か?」 「あぁそうさ、なんてったって、今のアルビオンには戦争物資が大量に運び込まれてるからな、 その商船を狙って物資を頂戴すれば、俺達の懐は潤うって寸法だ。それに、今回みたく、お前らみたいな酔狂な貴族がいれば、身代金も取れるしな」 「そうか、時間を取らせて済まなかったな、暇つぶしにはなったよ」 「へへ、お前らも運がなかったのさ」 「……かもな、おっとそうだ、もう一つあった」 下卑た笑いを浮かべながら扉から離れようとする看守に、エツィオは思い出したかのように言った。 「お前らの頭、様子がおかしくなかったか?」 「あン? お前には関係ないだろうが」 空賊の口調がドスのきいたものに変わる、エツィオは小さく鼻を鳴らすと僅かに笑みを浮かべた。 「それもそうだな、それじゃ頭に言伝を伝えてくれ『大事なものでもなくしたか?』ってな」 「お前……なにか知ってんのか?」 「さぁな、頭に聞いてみたらどうだ?」 「ちっ……、おい、ちょっとここを頼む、頭のところへ行ってくる」 看守の男は一つ舌打ちすると、近くにいた空賊に見張りを頼み、足早に通路の奥へと消えていく。 「さて、どうでるかな……?」 覗き窓からその様子を見ていたエツィオはドアから離れると、壁に背をついて腕を組み小さく呟いた。 しばらくの間、エツィオが事態の進展を待っていると、スープの入った皿をもったルイズが近づいてきた。 「ん? 好き嫌いは良くないな、まだ残ってるぞ」 「ち、違うわよ、あんたの分よ、あんた、まだ食べてないでしょ?」 ルイズはそう言うと、むっとした表情で、エツィオにスープの入った皿を差し出した。 「なんだ、俺の分なんて気にしなくてもいいのに」 「そう言うわけにはいかないわよ、その……わたしの使い魔なんだし」 「おいおい、この間まで平気で食事抜きを宣言していた奴のセリフとは思えないな」 エツィオがからかうと、ルイズは顔を真っ赤にして反論する。 「ち、違うわよ! 今はその……! こんな状況だし、いざとなったらあんたにも働いてもらわないとならないからでっ……!」 「そうだったな、では、ご主人様の寛大なお心に感謝を」 笑みを浮かべ、ルイズから皿を受け取ろうとしたその時、扉が開いた。 先ほどの看守の男がエツィオを睨みつける。 「そこのフードの男、出ろ、頭がお呼びだ」 「……わかった、行こう」 エツィオは、僅かに口元に笑みを浮かべ、壁から離れる。 「エツィオ……」 「大丈夫だよ、心配するなって」 ルイズはエツィオのマントの裾を握りしめ、心配そうに見つめた。 エツィオはルイズの手を取ると、安心させるように優しく肩に手を置き微笑んだ。 「おい、早くしろ」 「……空気の読めない奴だな、わかったよ、それじゃ、行ってくる」 せっつかれたエツィオはそれだけ言うと、空賊の男の後に続き、船倉から連れ出される。 扉がばたん、と音を立てて閉まり、船倉にはルイズとワルドだけが取り残された。 「エツィオ……大丈夫かな……」 エツィオが連れて行かれ、途方にくれたルイズは、壁際まで歩くと、そこにしゃがみこみ、蹲った。 その様子に気がついたワルドが、近づいてきて肩を抱いて慰めてくれた。 「大丈夫、きっと無事だ、彼らも下手に手出しをしようとは思わないさ」 「うん……あなたがそう言うなら……きっとそうよね……」 力なくルイズが呟いた。言葉ではそう言っているが、ルイズの胸中は不安で仕方がなかった。 しばらくそうしていると、再びドアが開いた。今度は痩せぎすの空賊だった。 空賊はじろりと二人をみると、楽しそうに言った。 「おめえらは、アルビオンの貴族かい?」 ルイズ達は答えない。 「おいおい、だんまりじゃわからねぇよ。でもそうだったら失礼したな。俺達は貴族派の皆さんのおかげで、商売させてもらっているんだ。 王党派に味方しようとする、酔狂な連中がいてな。そいつらを捕まえる密命を帯びているのさ」 「じゃあ、この船はやっぱり反乱軍の軍艦なのね?」 「いやいや、俺達は雇われているわけじゃあねぇ、あくまで対等な関係で協力し合っているだけさ、で、お前達はどうなんだ? 貴族派なのか? そうだったらきちんと港まで送ってやるよ」 その言葉にルイズはすっと立ち上がり、真っ向からその空賊を見据えた。 「誰が薄汚いアルビオンの貴族派なものですか。バカ言っちゃいけないわ、わたしは王党派への使いよ。 まだ、あんた達が勝ったわけじゃないんだから、アルビオンは王国だし、正当なる政府はアルビオンの王室ね。 わたしはトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使ね、だから、大使としての扱いをあんたらに要求するわ」 真っすぐに睨みつけるルイズをみて、空賊は笑った。 「正直ものだな、確かに美徳だが、お前達ただじゃ済まないぞ」 「あんたたちに嘘ついて頭を下げるくらいなら、死んだ方がマシよ」 ルイズは言い切った。 ワルドはほほ笑むと、ルイズの肩を叩いた。 「頭に報告してくる、その間に、ゆっくり考えるんだな」 「考えは変わらないわ」 空賊は去っていく。 「いいぞルイズ、さすがは僕の花嫁だ」 ワルドがそう言うと、ルイズは少し複雑な表情をして俯いた。 再び、扉が開く、先ほどの痩せぎすの空賊だった。 「頭がお呼びだ」 狭い通路を通り、細い階段を上り、二人が連れて行かれた先は、立派な部屋だった。 後甲板の上に設けられたそこが、頭……、この空賊船の船長室であるらしい。 がちゃりと扉を開けると、豪華なディナーテーブルがあり、一番上座に先ほどエツィオの腹を殴りつけた派手な格好の空賊が腰かけていた。 大きな水晶のついた杖を弄っている。どうやらこの格好でメイジのようだ。 頭の周りでは、ガラの悪い空賊達がニヤニヤと笑い、入ってきたルイズ達を見つめた。 ここまでルイズ達を連れて来た痩せぎすの空賊が、後ろからルイズをつついた。 「おい、頭の前だ、挨拶しろ」 しかし、ルイズはきっと頭を睨むばかり、頭はニヤリと笑った。 「気の強い女は好きだぜ、子供でもな、さてと、名乗りな」 「大使としての扱いを要求するわ」 ルイズは頭の言葉を無視して、先ほどと同じセリフを繰り返した。 「そうじゃなかったら、一言だってあんたらと口をきいてやるもんですか」 しかし、頭はそんなルイズの言葉を無視して、言った。 「王党派と言ったな」 「ええ、言ったわ」 「何しに行くんだ? あいつらは明日にでも消えちまうよ」 「あんたらに言うことじゃないわ」 頭は歌う様に、楽しげな声で言った。 「貴族派につく気はないかね? あいつらは、今メイジを欲しがっている。たっぷり礼金も弾んでくれるだろうさ」 「死んでもイヤよ」 「そうか、死んでもか……おい」 頭が合図を出すと、部屋の物陰から誰かが崩れ落ちるように倒れ込んだ。 それを見たルイズは一瞬息が止まりそうになった。 もとは白かったであろうローブをボロボロにされ、ぐったりと倒れ動かないその人物は、果たして自身の使い魔であるエツィオであった。 「え……エツィオ! エツィオ! いや! いやぁ!」 「よせ! ルイズ!」 髪を振り乱し、エツィオに向かい駆けだそうとしたルイズを後ろに控えていたワルドが止める。 ルイズはなんとかワルドを振りほどこうと半狂乱になりながらもがいた。 「離して! ワルド! エツィオが! エツィオが!」 「落ち着くんだ! ルイズ!」 「あんた! エツィオになにしたの! わたしのっ……! わたしの使い魔に!」 「なかなか強情な男でな、貴族派につけと散々言ったんだが、なかなか首を縦に振らなくてな、仕方ないんで痛めつけたら、動かなくなっちまったよ」 頭はニヤニヤと笑うと、倒れ伏したエツィオの頭を杖の石突で小突いた。 やはりというべきか、エツィオの身体はぴくりとも動かない。 「やめて! それ以上エツィオに酷い事しないで!」 「ふん、いいとも、もう死んじまってるしな。さて、なんの話だったかな、おおそうだ、貴族派につかないかって話だったな」 頭は楽しそうに笑うと、エツィオから視線を外し、ルイズをじろりとにらんだ。 「こいつみたいになりたくはないだろう? ……これが最後だ、貴族派につく気はないかね?」 「イヤよ! 絶対にイヤ! エツィオを殺したあんたたちなんかに、絶対に、絶対につくものですか! あんたたちにつくくらいなら、ここで舌を噛み切って死んでやるわ!」 ルイズは流れる涙も拭かずに、きっと頭を睨みつけ、力強い声で答えた。 頭は笑った。大声で笑った。 「エツィオ! 君の言うとおりだったな。トリステインの貴族は、本当に気ばかり強くてどうしようもないな」 「やれやれ、その中でも、彼女はとびきり気が強いのです。困ったご主人ですよ、殿下」 「なに、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシというものだ」 頭は床に倒れ伏すエツィオに視線を送り、わっはっはと笑いながら立ち上がった。 頭の豹変ぶりに戸惑うルイズの前で、床に倒れていたエツィオがむくりと起き上がった。 ルイズは驚きのあまり口をあんぐりと開けたまま、エツィオを見つめた。 「エツィオ! え……? あんたっ……! なんで!」 「やあルイズ、俺がさっき言った事、もう忘れちゃったのか? そんなんじゃ、この先命がいくつあったって足りないぞ」 「え……ど、どういうこと……? あんた、殺されちゃったんじゃ……」 「それはこちらから説明しよう」 突然の出来事に呆然とするルイズとワルドに、空賊の頭はニヤリと笑った。 周りにいた空賊達が、ニヤニヤ笑いをおさめ、一斉に直立した。 「いや、失礼した、貴族に名乗らせるなら、まずはこちらから名乗らなくてはな」 頭は縮れた黒髪を剥いだ。なんと、甲板でエツィオが指摘した通り、それはカツラであった。 眼帯を取り外し、これまた作り物だったらしい、つけ髭をびりっとはがした。 現れたのは、凛々しい金髪の若者であった。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊総司令長官……本国艦隊といっても、既に本艦『イーグル号』しか存在しない、無力な艦隊だがね。 まあ、そんな肩書より、こちらの方が通りがいいだろう」 若者は佇まいをただし、威風堂々、名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズはあんぐりと口を開け、いきなり名乗った若き皇太子を見つめた。 ワルドは興味深そうに、皇太子を見つめた。 ウェールズはにっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズ達に席を勧めた。 「アルビオン王国へようこそ。大使殿。事情は彼から全て聞いているが、こればかりは大使殿の口から、直接伺わねばな」 「ちょ、ちょっと待ってください……え、エツィオ、どういうことなの?」 あまりのことに未だ混乱しているといった様子で、ルイズがエツィオに訊ねる。 すると、ウェールズは笑いながらルイズを見つめた。 「いや、空賊を装うのも致し方のない事だったのだ。金のある反乱軍には次々と物資が送り込まれる。 敵の補給を断ち、物資を奪うのは戦の基本だが、堂々と王軍の軍艦旗を掲げたのではあっという間に反乱軍に取り囲まれてしまうからね」 ウェールズはいたずらっぽく笑って言った。 「大使殿には、誠に失礼をいたした。しかしながら、彼から花押付きの手紙と『水のルビー』を受け取るまで、王党派の貴族だと夢にも思わなかったのだ、申し訳ない」 手紙と、『水のルビー』、そこまで言われて、ルイズは慌てて胸のポケットを探った。 だがいくら探っても手紙が見つかることは無かった。おまけに指にはめていたはずの『水のルビー』までもが無くなっている。 まさかと思い、エツィオを見つめた。 エツィオが船倉から連れ出される時、エツィオはわたしの手を取り肩に手を……、まさか……、あの時か! 「気がつくのが遅いぞ、ルイズ、君は隙だらけだな」 「エツィオ! あんたっ、い、いつの間に!」 そのやりとりを見ていたウェールズはわっはっはと笑い声を上げた。 「なるほど、ラ・ヴァリエール嬢もやられたか、まったく、君という男は大したものだな、エツィオ」 「まったくお恥ずかしい限りです」 「いや。ラ・ヴァリエール嬢、君は随分と優秀な使い魔を従えているようだ」 「勿体無きお言葉です、殿下」 ルイズに代わり、エツィオが優雅に頭を下げる。 「甲板では参ったよ、まさか真っ先に変装を見破ってくるとはね、しかもその上で王家の証たる『風のルビー』すらも掠め取るとは……。 そして、彼を部屋に呼び出して、話をしてみると、頭も回ることに気がつかされる、 それで、僕もつい地が出てしまってね、あれよあれよと彼に正体を見破られてしまったと言うわけだ」 ウェールズが、感心したように言った。 あまりの展開に、ルイズは口を開けたままぽかんと立ちつくすばかり。 貴族派の空賊かと思っていたら、頭は目的のウェールズ皇太子だわ、 エツィオが殺されてしまったと思っていたら、実は生きていて、その上自分を思いっきり出し抜いているだわで、頭の中がぐっちゃぐちゃに混乱していたのであった。 「おや? まだお疑いかな? まあ先ほどまでの姿を見れば、無理もあるまい、僕はウェールズだよ、正真正銘の皇太子さ、なんなら証拠をお見せしよう」 そんなルイズを見て、ウェールズは笑った。 「エツィオ、『水のルビー』を貸して頂けるかな?」 「こちらにございます」 エツィオが懐から『水のルビー』を取りだし、恭しくウェールズに差しだす。 その様子をぽかんと見つめていたルイズに、ウェールズは自分の薬指にはめた指輪を外しながら言った。 「そう言えば、まだ先ほどの非礼を詫びていなかったな。実は、彼とは話をしているうちに意気投合してね、 君が船倉で大使だと名乗りを上げたと報告を受けた時に、彼から君を試すように言われて、一芝居打つ事にしたんだ、いや、どうか許してほしい」 「え……? え、エツィオ! そうだったの!」 「げっ……、で、殿下、それは言わない約束だったでしょう!」 「はっはっは、散々僕らをひっかきまわしてくれた礼さ!」 ウェールズは豪快に笑うと、二つの宝石を近づけた。二つの宝石は共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。 「さて、察しの通り、この指輪は、アルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ。君が持っていたのは、アンリエッタの持っていた『水のルビー』。 水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ、この事は、ごく限られた人間しか知らない」 「た、大変、失礼をばいたしました」 「いや、気にすることは無い、全てこちらに非があるからな。では、改めて御用向きを伺おうか、大使殿」 「アンリエッタ姫殿下から、密書を言付かって参りました」 ワルドが、優雅に頭を下げて言った。 「ふむ、君は?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」 それからワルドはルイズ達をウェールズに紹介した。 「すでにご存じかと思いますが、今一度ご紹介させていただきます。 こちらが、姫殿下より、大使の大任を仰せつかった、ラ・ヴァリエール嬢と、その使い魔の青年にございます、殿下」 「うむ、エツィオから聞いていた通り、きみは立派な貴族のようだな、子爵、 君の様な立派な貴族が私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このような惨めな今日は迎えていなかっただろうに! では、密書を受け取ろうか」 「ルイズ、これを」 エツィオがルイズに先ほど掠め取った手紙を渡す。 ルイズはそれを受け取ると、ウェールズに一礼し、手紙を手渡した。 ウェールズは愛しそうにその手紙を見つめると、花押に接吻をした。それから慎重に封を開き、便箋を取り出し読み始めた。 真剣な顔で、手紙を読み進めていたが、そのうちに顔を上げた。 「姫は結婚するのか? あの愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は」 ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を示す、再び、ウェールズは手紙に視線を落とす。 最後の一行まで読むと、微笑んだ。 「了解した。姫はあの手紙を返してほしいとこの私に告げている。何よりも大事な姫からの手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」 ルイズの顔が輝いた。 「しかしながら、今は手元にない、ニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を、空賊船に連れてくるわけにもいかぬのでね」 ウェールズは笑いながら言った。 「多少、面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7742.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 決闘騒ぎも終わり、学院に普段と同じ平穏が戻る。 なんとかルイズをなだめ、教室へ送り届けたエツィオは、傷の手当てをすべく、水汲み場へと向かった。 エツィオが水汲み場へ向かっていると、ふと視線を向けた先に見知った顔が一人、おろおろとしているのが見えた。 「おや? シエスタ?」 「エツィオさん!」 エツィオがその人物、シエスタに声をかける、彼女はエツィオを見るとすぐに駆け寄ってきた。 「さっきはどうしたんだ? 急に逃げ出して……」 「エツィオさん! 私っ! 心配してたんです! 貴族の方と決闘だなんて!」 「あぁ、あれか、何、たいしたことじゃないさ」 「その怪我っ……! あぁっ、あの時私が止めていれば……こんな……」 エツィオの口元の傷を見てシエスタがぽろぽろと涙を流し始めた。 自分のせいでエツィオがひどい目に遭わされてしまった、と言わんばかりである。 「ごめんなさい……私、怖くなって、逃げてしまったんです。本当に、貴族は怖いんです、私のような魔法が使えないただの平民にとっては……だからっ……!」 「おい、なんだよ、まるで俺が負けたみたいな言い草だな」 「だって貴族の方とっ! ……え?」 シエスタはきょとん、とした表情でエツィオの顔を見る。 エツィオは肩をすくめると、笑いながら言った。 「決闘を見ていてくれなかったのか? それはひどいな!」 「えっ!? う、うそっ! そんなっ!」 シエスタは両手で頬を押え、顔を真っ赤にしながらうろたえる。 エツィオの勝利が信じられないと言った様子だ。 「決闘なら俺の勝ちで終わったよ、誓って本当さ、なんならギーシュでも呼んでくるか?」 「えっ……? ほ、本当に?」 「何度も言わせないでくれよ、それともそんなに俺が信用ならないか?」 「や、やだっ、私ったら何かとんでもない勘違いをっ!?」 耐えきれなくなったのか顔を両手で覆い、シエスタがしゃがみ込む。 それを見たエツィオはわざと落胆した様子で呟いた。 「なんだ……見ていてくれなかったのか、せっかくこの勝利を君に捧げようとしていたのに……残念だ」 「わわっ、私のためにだなんて! とっ、とんでもないです! それにエツィオさんを信じ切れなかった私が悪いんです!」 「いや……いいんだ、勝利の女神に浮気した俺が愚かだったんだ、いっそ負けてしまえば、君という女神が俺に慈悲を垂れてくれたかもしれないのに……」 「そっ! そそそ、そんな! そんなこと言わないでください! お願いします!」 エツィオのいちいち芝居がかった台詞にシエスタがいちいち大仰に反応する。 それが楽しくてエツィオの調子がますますエスカレートする。 「決闘に勝って、勝負に負けるとはこのことか……胸にぽっかりと穴があいた気分だよ」 「ごっ、ごめんなさい! エツィオさん! 私! なんでもしますからっ! どうかそんな事を言わないでくださいっ!」 「なんでも?」 からかわれ半泣きになったシエスタがエツィオの身体にすがりつく。 エツィオはフードの中でニヤリと笑うと、シエスタの腰に片手を回し、きつく抱きよせた。 突然の出来事にシエスタが目を白黒させる。 「えっ? あぇっ? そ、その……え、エツィオ……さん?」 「そうか……なんでもか。なら、今から君は俺の専属メイドだ」 「ふぇっ!? せっ、専属! ……ですかっ!?」 突然の要求にシエスタが素っ頓狂な声を上げた。 エツィオは空いた手でシエスタの顎をしゃくり、瞳の中を覗き込む、シエスタの胸の鼓動が益々早くなるのを感じる。 シエスタは面白いほど動転している、そんな彼女にトドメを刺すべくエツィオが耳元で囁いた。 「よろしいかな……? シエスタ」 蕩けそうなほどの、情熱的で甘い声、みるみる顔が赤くなり、かくん、とシエスタの全身から力が抜ける。 毒牙にかかった瞬間だった。 「よ……喜んで……」 「決まりだな」 「はひ……」 うっとりとした表情でシエスタが頷く。 エツィオはにっと笑うと、腰にまわした手を離した。 シエスタはそのままぺたんと地面に座り込んだ。 その様子はもはや心ここに在らずといった感じだ。 「おいおい、大丈夫か?」 ちょっとやりすぎたかな、とエツィオが苦笑しながら手を差し伸べシエスタを引き立たせる。 シエスタはふらふらと立ち上がると、ぺこりとお辞儀をした。 「はっ、はい、あのっ……ふ、ふつつか者ですがどうぞよろしくおねがいします!」 「あぁ、これで君を他の男に取られる心配はなくなったわけだな」 「あの、呼び方はどうしましょう?」 「呼び方?」 「はいっ! 私は専属メイドなので、やはりエツィオさんじゃ何かと……その……、ですからご主人様とかっ!」 「いや、いつも通りに接してくれ、万が一ルイズに知られたら大変だ。あの子はそう言うのに一々うるさくてね。 主人に対し、配慮をするのもメイドの仕事、そうだろ? この関係は二人だけの秘密、いいかな?」 「秘密のカンケイ……、わかりました、ちょっと残念ですけど、いつも通りエツィオさん、ってお呼びしますね」 「よろしい、さてシエスタ、早速で悪いが、ちょっと傷の手当てをしたいんだ、薬があったら分けてくれないか?」 「はいっ、それじゃあ、厨房へ行きましょう、あそこなら薬箱もありますから」 「よし、では行こうか」 エツィオは小さく笑みを浮かべると、シエスタを連れ、厨房へと向かった。 「おいシエスタ! どこに行ってたんだ!」 「あっ、マルトーさん!」 二人が厨房へ足を踏み入れると、一人の恰幅のいい中年男が現れた。 服装からしてこの厨房のコックであろう。 マルトーと呼ばれた男は、呆れたように言った。 「まったく、まだ話の途中だったろうが、すぐに逆転したって言おうとしたら、 急に顔を青くして走って行っちまうんだからよ……」 「す、すいません……」 シエスタが恥ずかしそうにうつむく。 どうやら、途中経過だけを聞いてエツィオが負けたと早とちりして厨房を飛び出したようだった。 エツィオは小さく笑い、シエスタの肩に手を置く。 「だろう? 君の勘違いさ」 「は……はい……」 「ん? お前さんは……おおっ!」 シエスタの横に立っていたエツィオに気がついたマルトーは頓狂な声を上げる 「誰かと思えば『我らの刃』じゃないか! なんだシエスタ! 連れてきてくれたのか!」 「『我らの刃』?」 突然出てきた言葉に首をかしげる、まるでセンスのない吟遊詩人がつけたようなネーミングだ。 「おうよ! お前さんはもう学院じゃ有名人だぜ! 高慢ちきな貴族を打ち負かした、我ら平民の希望! 『我らの刃』だ!」 「ははっ、それはどうも……」 肩を竦め、なんとも微妙な反応を返す。 それを謙遜と受け取ったのか、マルトーはエツィオの肩を力強く叩いた。 「なぁに! 謙遜することは無いぞ! さぁ『我らの刃』よ! こっちに来てくれ!」 「なっ、おい、ちょっと……」 「おおい! 『我らの刃』が来たぞ! 英雄の凱旋だ!」 マルトーが厨房に響くように怒鳴った、それを聞いた若いコックや見習い、メイド達がどっと押し寄せる。 「おおっ! この人が!」 「貴族を打ち負かしたってホントか!」 「俺は見たぞ! 蝶のように舞い、蜂の用に刺す! 次々ゴーレムを切り裂いていったんだ!」 「素敵な方……」 厨房中から歓声が沸き起こる、もみくちゃにされながらエツィオが苦笑する。 「お、おい、まずは落ち着いてくれ、俺はただ……」 「え、エツィオさんは傷の手当てをしたいそうなので! そのっ、後でお願いします!」 「おおそうか! おい! 何やってる! 早く救急箱持ってこい!」 エツィオの言葉を引き継ぐようにシエスタが進み出る、 それを聞いたマルトーが見習いを怒鳴りつけ救急箱を取りに行かせた。 エツィオは厨房の奥にある椅子に腰かけると、小さく息を吐いた。ギーシュを倒したくらいで大変な騒ぎである。 救急箱を受け取ったシエスタが手際よくエツィオの傷口を消毒し、手当をした。 そうして手当てを終えたエツィオにマルトーが話しかける。 「いやぁ、悪かったな『我らの刃』よ、お前が貴族を打ち倒したもんだから、あいつらみな興奮してんだ、って、俺もなんだけどな!」 「いや、別に気にしてはいないさ、えぇと、ミスタ・マルトー」 「おいおい、『我らの刃』よ、ミスタ、だなんてつけてくれるな! そのまま呼んでもらってかまわんよ!」 マルトーはエツィオの首に太い腕を巻きつけた。 「そうか、俺はエツィオだ、そちらも『我らの刃』だなんて呼ばずに、名前で呼んでくれ」 「どうしてだ?」 「他人行儀で寂しいじゃないか、俺は君らと同じ平民だ、仲間だろ?」 エツィオはマルトーと肩を組むと、人懐こい笑顔で語りかける。 その言葉に感極まったマルトーが大声を上げ、さらにエツィオの首を締めあげた。 「なんて奴だ! お前みたいないい奴見たことがないぞ! エツィオ!」 「ぐぉっ、く、苦しいって!」 「おぉすまんな! ははっ! つい感激しちまってな! 俺はお前の事が益々気に行った! どうしてくれる! お前の額に接吻するぞ!」 「おい、勘弁してくれ! 俺の身体は女の子の物だ!」 「言ってくれるじゃねぇかこの野郎!」 マルトーが豪快に笑い飛ばし、シエスタの方を向いた。 「おいシエスタ! 俺の代わりにこの勇者にキスしてやれ!」 「はい! って、えぇっ!?」 そんな二人の様子をニコニコしながら見守っていたシエスタが元気よく返事を返したが、 とんでもないことをさらりと言われていたことに気がつき、顔が真っ赤になった。 「ええっと、その! あの、私! まだ初めてでそのっ! で、でもエツィオさんなら! よ、よろしくおねがいします!」 しどろもどろになりながらシエスタはエツィオに口づけをすべく、目をつむった。 エツィオは小さく笑うと、人差し指を立てシエスタの唇にそっと触れる。 驚いたシエスタが目を開けた。 「ファーストキスか、なら君の口元を血で汚すわけにはいかないな、キスはお預けだ、シエスタ」 「は、はぁ……わかりました」 果たしてどちらに対しての『お預け』なのか、エツィオはそう言うと軽くウィンクした。 どことなく落胆した様子のシエスタが小さく肩を落とす。 「まぁそう気を落とすなシエスタ! なら、せめて我らの勇者にアルビオンの古いのを注いでやれ!」 すぐに気を取り直したシエスタは、満面の笑みになると、葡萄酒の棚から、言われたとおりのヴィンテージを取り出してきて、 エツィオのグラスに並々と注いでくれた。香りを愉しんだあと、まずは一口ワインを口にする。 「へぇ、うまいな、朝にもワインを頂いたが、あれとは大違いだな、かなりいいワインじゃないのか?」 「その味がわかるか! 貴族のガキ共に出すよりお前に飲んでもらった方がそのワインも幸せってもんだ!」 一気にグラスを傾け、飲み干したエツィオを、シエスタは、うっとりとした面持ちで見つめている。 マルトーは社交的で機知に富んだエツィオの人柄を気に入り、惚れ込んだようだ。 「ごめんなさい、エツィオさん、マルトーさんがはしゃいじゃって……」 「なに、気にしてはいないさ、少し驚いたけどな」 しばしの談笑を楽しんだエツィオは、ルイズのいる教室へ向かうべく、厨房を後にする。 これから夕食の準備だと言うシエスタは厨房の入口までエツィオを見送った。 彼女も学院に勤めるメイドである以上、学院での仕事はきちんとこなさなくてはいけない。 専属とエツィオは言ったが、彼女を拘束するつもりは毛頭なかった。 「それじゃあ、私は仕事に戻ります、何かあったら言ってくださいね、お力になりますので」 「ありがとう、また寄らせてもらうよ」 教室へ向かうエツィオの後ろ姿をうっとりとした表情で見つめていたシエスタは、 緩んだ頬を引き締め、仕事に戻るべく厨房へと戻る。 その時、柱の陰にいる影に気がついた。 「あら? 何かしら?」 赤い影はきゅるきゅると鳴くと、消えていった。 エツィオが召喚されてから一週間ほど経とうとしたある日。 午後の授業を全て終え、教室から出てきたルイズと合流したエツィオは、例によって彼女を食堂までエスコートする。 常に彼女の歩調に合わせ、半歩後を歩く、その姿はまさしく、お姫様につき従う騎士のようである。 「さ、どうぞ」 エツィオが椅子を引きルイズが腰かける。相も変わらず、見事なエスコートであった。 テーブルにはやはりというべきか、豪勢な食事が並んでいる。 エツィオが視線を下に向ける、するとそこには、いつもと同じスープが置いてあった。 「なぁルイズ……」 「なに?」 「やっぱり、なんとかならないのか?」 「なによ、ギーシュに勝ったご褒美に食事抜きの罰を帳消しにしてあげたんだから、ありがたく思いなさいよね」 エツィオがつらそうな表情で言うと、ルイズがすました顔で言った。 「はぁ……、外で食べてくるよ、君らの食事を眺めながらだとつらいものがある」 エツィオは大仰に肩を竦めると、大きくため息を吐く。 そして退出しようと踵を返した時、ルイズに呼び止められた。 「待ちなさい」 「ん? 何か?」 「ワインとグラス、置いて行きなさい」 「……ばれてたか」 流石に気付いたか……エツィオは苦笑しながら懐からワインボトルとグラスを取り出し、ルイズのテーブルに置いた。 「次やったら本当に食事抜くわよ? いいわね?」 「はいはい、肝に銘じておくよ」 ルイズが静かに睨みつける、エツィオは手のひらをひらひらと振りながら食堂を後にした。 「まだ甘いな……」 食堂の外に出たエツィオは小さく呟くと、懐からスプーンとフォーク、ナイフ等の食器を取り出す。 全てルイズの手元に置いてあったものだ、今頃彼女は慌てふためいているだろう。 その顔を見る事が出来ないのが残念だ。 溜飲が下がったエツィオは、薄く笑みを浮かべ、厨房へと向かおうとした、その時。 咄嗟に振り向き、手に持っていたナイフを振り向きざまに投げる。 一瞬左手のルーンが光り、投げたナイフは恐ろしい速度で石柱に当たりぽっきりと折れてしまった。 「……さて、かくれんぼは終わりにしようか、いい加減飽きただろ?」 一週間ほど前からずっと感じていた視線に対し声をかける。 警戒しながら、石柱付近を注意深く観察する、すると、きゅるきゅると鳴き声が聞こえてきた。 聞いたことのある鳴き声にエツィオが首をかしげると、柱の陰から赤い影がのっそりと現れた。 キュルケのサラマンダーである、どうやら今までの視線の正体はこのサラマンダーであるようだった。 「あれ? お前は確か、キュルケって子の……あっ、おい!」 エツィオが声をかけると、サラマンダーは尻尾を振り、口から僅かに炎を上げて、去って行ってしまった。 「……まぁいいか」 今までの視線の正体が、サラマンダーであることに拍子抜けしたのかエツィオが肩を竦めた。 その日の夜……。 ルイズはエツィオの毛布を廊下にほっぽり出した。 「なんのつもりだよ」 「手癖の悪い使い魔が何か盗んだら困るでしょ?」 食器類を掠め取ったことを根に持っているらしい。 「これじゃ何かあったときに君を守れないぞ?」 「そう、なら何か起きないように外で見張っておいて」 ルイズは眉を吊り上げて言い放った。 つくづく根に持つ少女だ。今夜はどうあっても部屋では寝させてくれないようだ。 エツィオは諦めたように外へと出る、中からガチャリと鍵を開ける音が聞こえてくる。 試しにドアノブを捻るがやはりというべきか、うんともすんとも言わない。 「やれやれ、締め出されたか……」 小さく呟きながら、壁に寄り掛かる。 窓から風がびゅうと吹いてエツィオの身体を凍えさせた。 シエスタの所にいって温めてもらうかな、なんてことを考えていると、キュルケの部屋の扉がガチャリと開いた。 出てきたのは、サラマンダーのフレイムだった。 燃える尻尾が温かそうだ。 エツィオはフッと笑うと、手を差し伸べる。 「お前は……、あぁ、さっきは悪かったな、ちょっと気が立ってたんだ、仲直りしよう」 エツィオが優しく語りかけると、サラマンダーはちょこちょこと近づいてきた。 きゅるきゅる、と人懐こい感じで、サラマンダーは鳴いた。どうやら害意はないらしい。 「へぇ、なかなか人懐こい……ん?」 サラマンダーはエツィオのローブの袖を咥えると、ついてこい、というように首を振った。 「まてまて、大事な形見なんだ、燃やさないでくれよ」 エツィオは言った。しかし、サラマンダーはぐいぐいと強い力でエツィオを引っ張った。 キュルケの部屋のドアは開けっぱなしだ。どうやらそこに引っ張り込むつもりらしい。 「入れってことか?」 エツィオがサラマンダーに尋ねると、肯定の意味なのか、きゅるきゅる、と鳴いた。 サラマンダーが自分を監視していた事が腑に落ちないが、どうやら害意は無いらしい。 エツィオはキュルケの部屋のドアをくぐった。 入ると、部屋は真っ暗だった。サラマンダーの周りだけ、ぼんやりと明るく光っている。 暗がりからキュルケの声がした。 「扉を閉めて?」 エツィオは扉を閉めた。 「ようこそ、こちらにいらっしゃい」 その一言だけでエツィオは全てを察したらしい。 口元に微笑を浮かべ、一歩一歩ゆっくりと歩を進めていく。 キュルケが指をはじく音が聞こえた。 すると、部屋の中に立てられたロウソクが一つずつ灯っていく。 エツィオの近くに置かれたロウソクから順に火は灯り、キュルケのそばのロウソクがゴールだった。 まるで道のりを照らす街灯のように、ロウソクの火が灯っていた。 ぼんやりと、淡い幻想的な光の中に、ベッドに腰かけたキュルケの姿があった。 ベビードール一枚というなんとも悩ましい姿である。 「お招きいただき光栄だ、ミス・キュルケ」 エツィオは優雅に腰を折り一礼する。 キュルケはにっこりと笑って言った。 「座って」 「では失礼」 エツィオはキュルケの横に腰かける。 彼女の目的は大体察しているが、あえて問いかけた。 「さて、本日は何の用があって俺を呼び出したのかな?」 燃えるような赤い髪を優雅にかき上げて、キュルケはエツィオを見つめる。そして大きくため息をつき、悩ましげに首を振った。 「あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」 「……」 「思われても仕方がないの、わかる? あたしの二つ名は『微熱』……」 キュルケは切なげな声でフードの中を覗き込む、エツィオは優しい笑みを浮かべ彼女の顎を持った。 「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの、だからこんな風にお呼び立てしてしまうの。わかってる、いけないことよ」 「なるほど、だからあの子を俺の監視につけたのか」 エツィオが部屋の隅のサラマンダーを顎でしゃくる、キュルケは潤んだ瞳でエツィオを見つめ、すっと顎にあてられた手を握る。 そして一本一本、エツィオの指を確かめるようになぞり始めた。 「監視だなんて……! あたしはただあなたのことをもっと知りたかっただけ……。 あなたがギーシュを倒した時の姿……とってもかっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだった」 「それで? 俺の何がわかったのかな?」 「誰よりも紳士的で、それでいて野性的、その上こんなにもハンサムだなんて……。知ってるんだから、あなた、一人メイドを誑し込んでるみたいね、 その子はもうあなたの事ばかり見てる、ずるいわ、そのメイドに嫉妬しちゃう……。でも仕方ないわ、貴方の魅力に惹かれない女なんていないもの……あたしもその一人。 あの日からあたしはぼんやりとしてマドリガーレを綴ったわ、マドリガーレ、恋歌よ。あなたの所為なのよエツィオ。 あなたが毎晩あたしの夢に出てくるものだから、フレイムを使って様子を探らせて……」 「お褒めいただき光栄だ、キュルケ……、でも君だけが俺の事を知っているだなんて、ちょっと不公平じゃないか?」 「そうね……恋の駆け引きはいつも公平であるべき、だからあたしはあなたをお呼びしたのよ? エツィオ。あなたにあたしをもっと知ってもらいたくて……」 「あぁ……是非とも君の事を知りたいな、マドリガーレ、聴かせてくれるんだろう?」 「もちろんよ、エツィオ……」 キュルケは、エツィオの口元の古傷を指でなぞり、ゆっくりと目をつむり、唇を近付けてきた。 エツィオがキュルケと唇を重ねようとしたその時、窓の外が叩かれた。 そこには、恨めしげに部屋の中を覗くハンサムな一人の男の姿があった。 「キュルケ……。待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」 「ペリッソン! ええと、二時間後に!」 「話が違う!」 ここは三階、どうやらペリッソンという男は魔法で浮いているらしい。 キュルケは煩そうに、胸の谷間に差した派手な魔法の杖を取り上げると、 そちらの方を見もしないで杖を振った。 ロウソクの火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹き飛ばした。 「うるさいフクロウね」 「それだけ君が魅力的だという証拠さ」 「彼はただの友達、勘違いしちゃってて困ってるの」 まったく動じないエツィオも流石である、悲鳴を上げ落下していく男を気にも留めずに、再び目をつむったキュルケへと唇を近付ける。 すると……今度は窓枠が叩かれた。 見ると、悲しそうな顔で部屋を覗き込む、精悍な顔立ちの男がいた。 「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」 「スティックス! ええと、四時間後に!」 「そいつは誰だ! キュルケ!」 怒り狂いながら、スティックス、と呼ばれた男は部屋に入ってこようとした。 キュルケは煩そうに、再び杖を振る。例によってロウソクの火が太い炎へと変化し、男を外へと吹き飛ばした。 「随分な扱いだな、友達にそんなことしていいのか?」 「彼は、友達というより知り合いね。とにかく時間をあまり無駄にしたくないの。夜は長いだなんて誰が言ったのかしら! 瞬きする間に太陽はやってくるじゃないの!」 「それについては同感だ」 キュルケとエツィオは再び唇を近付ける。 窓だった壁の穴から悲鳴が聞こえた。 またまたキスを中断されたエツィオはうんざりしながら振り向いた。 窓枠で、三人の男が押し合いへしあいしている。 三人は同時に同じセリフを吐いた。 「キュルケ! そいつは誰なんだ! 恋人はいないって言ってたじゃないか!」 「マニカン! ギムリ! エイジャックス! ええと、六時間後ね」 キュルケはめんどくさそうに言った。 「朝だよ!」 三人が仲良く唱和した。 キュルケはうんざりした声でサラマンダーに命令した。 「フレイムー」 きゅるきゅると部屋の隅で寝ていたサラマンダーが起き上がり、 窓際で争っている三人に向かって炎を吐いた。 三人は仲良く地面に落下して行った。 「今のは?」 エツィオは意地悪な笑みを浮かべながら尋ねる。 「さあ? 知り合いでもなんでもないわ。 とにかく! 愛してるわエツィオ!」 キュルケはエツィオの顔を両手で挟み、まっすぐに唇を奪った。 エツィオはそんな彼女の肩に両手を置くと、そのままベッドに優しく押し倒した。 「ふぅっ、荒っぽいキスだな、でも嫌いじゃない」 「……あなた、責めないの?」 跨られる形になったキュルケがエツィオに尋ねる。 「責める? これからさ、じきに君は俺の事しか見えなくなる」 サディスティックな笑みを浮かべ彼女の耳元で甘く囁く。 ゾクゾクゾクッ! っとキュルケの全身に電撃が走るのを感じる。 途端に心拍数が跳ね上がり、顔が火照ってきた。 「君は遊びのつもりで俺に手を出したんだろうけど……」 エツィオに瞳を覗きこまれる、キュルケは思わず目をそらす。 甘く見すぎていた、ちょっと遊んでやるだけ、それだけのはずだったのに、心臓が狂ったように高鳴っている。 いつの間にか彼を直視することができなくなった、直視すればするほど、彼に惹きこまれてしまいそうで。 このまま彼に身を任せていたら、自分はどうにかなってしまいそうだ。 エツィオの手がキュルケのベビードールへと伸び、優しく、焦らす様に脱がしていく。 「あっ……」 切なげな吐息を洩らし、キュルケはエツィオの成すがままになっていた。 「俺は彼らのようにはいかないということを、じっくりと君に教えてあげ――」 最後の一枚にエツィオの手が伸びた、そのとき……。 ドアが勢いよく開け放たれた。 また男か? いいところなのに……。と思ったら違った。 ネグリジェ姿のルイズが立っている。 「げっ……!」 その姿を見たエツィオがキュルケから飛び退く。 幾多の死線を潜り抜けたエツィオが思わず身構えるほど、今のルイズからは怒気と殺気があふれ出ていた。 ルイズは忌々しそうに部屋に立てられたロウソクを一本一本蹴り倒しながらエツィオとキュルケに近づいた。 「キュルケ!」 ルイズはキュルケの方を向いて怒鳴った。 ぽー……っと上の空だったキュルケが、我に返り振り返った。 「……あら? ヴァリエールじゃない、いまいいところだったのに……」 「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出してんのよ!」 ルイズの鳶色の瞳は爛々と輝き、烈火のような怒りを示している キュルケがシーツを手繰り寄せ胸元を隠した。 「あぁ……それね、うん……それが、好きになっちゃったの、本当に……」 キュルケはうっとりとした表情で言った。 ルイズの手がわなわなと震える。 「エツィオ、来なさい」 ルイズは窓だった壁の穴からこっそりと逃走を図ろうとしているエツィオを睨みつけた。 ビクっとエツィオの身体が硬直する、ルイズはずんずんと近づくと、エツィオの襟元をがしりと掴んだ。 「そ、それじゃキュルケ! また会おう!」 ルイズに襟元を掴まれ、ズルズルと引きずられながら退出していく。 バタン、と部屋のドアが閉まる、その様子を上の空で眺めていたキュルケがぼんやりと呟いた。 「ふふっ……うふふふふ……ルイズ、彼はあなたの手に余るわよ……くしゅん!」 窓だった壁の穴から吹き込む風に体を冷やしたのか、小さくくしゃみをする。 「はぁ……、この窓どうしましょ……」 部屋に戻ったルイズは、慎重に内鍵をかけると、エツィオに向き直った。 唇をギュッと噛みしめると、両目がつりあがった。 「まるでサカリがついた野良犬じゃないの~~~~~~ッ!!」 声が震えている。ルイズは怒ると口より先に手が動き、手よりも先に足が動く。 この一週間生活を共にして、その辺はエツィオも承知していたが。 もっと怒ると、声が震えるのは初めて知った。 ルイズは顎をしゃくった。 「そこにはいつくばりなさい、わたし間違ってたわ、あんたを一応人間扱いしていたみたいね」 「この扱いで人間って、君にとって人間ってどんな存在なんだよ」 「ヘラヘラ笑うなッ! ツェルプストーの女に尻尾を振るなんてぇーーーーーーッ! 犬ーーーーーーッ!」 ルイズは机の引き出しから何かを取り出した。鞭である。 「ははっ、薄々感づいてたが、君にそんな趣味があるなんてね……ちょっと意外、でもないか」 それを見てもエツィオは余裕の態度を崩さない、それが益々腹立たしい。 ルイズは怒りにまかせピシッっと床を叩いた。 「ここここ、この、ののの野良犬! 野良犬なら野良犬らしく扱わなくっちゃね。いいい今まで甘かったんだわ」 「本気でそういう趣味なのか? 困ったな、俺はどっちかっていうと責める方が好きなんだけどな」 エツィオはルイズの持った見事な鞭を見つめて茶化した。 いやぁ、立派な革製の鞭である。 「じょじょじょじょじょ、乗馬用よ! ソッチの鞭じゃないわよ! この馬鹿犬ーーーーッ!」 「おわっ!」 ルイズは鞭を振りかぶりエツィオを叩こうとする、紙一重で回避し、テーブルを挟むように逃げた。 「おい、落ちつけよ! えっと、その、さっきのは彼女が困ってたんだって! ……多分」 焦っているように見えて、口元がニヤついている、完全にナメている。 その態度がルイズの怒りにさらに油を注いだ。 「そこに直りなさい! 今日という今日はあんたに自分の立場ってものを文字通り叩きこんでやるわ!」 「ははっ、そればかりは……!」 「なによ! あんな女のどこがいいのよッ!」 エツィオは振り下ろされた鞭を手甲ではじき、ルイズから奪い取る。 目にもとまらぬ早業、ルイズは何が起こったのかわからないと言った表情でエツィオを見つめた。 エツィオは小さく笑うと、鞭を振い、ルイズと同じようにビシッ! と床を叩いた。 これから何をされるのか察したのか、ルイズの顔がみるみる青くなる。 「かっ……返しなさいよ……ッ!」 「おや? 言葉使いがなっていないな、攻守逆転だぞ、ご主人様。いや、この場合、ご主人様は俺か」 「ひっ……、あ、あんた、な、何する気よ……! や、やめなさいよ! 何考えてるのよ!」 「君と考えてることは一緒さ、立場ってものを教えてあげようと思ってね」 とってもサディスティックな笑みを浮かべたエツィオにルイズがへたり込む。 どうしよう……このままじゃ本当に……。 エツィオが手に持った鞭を振り上げ、ルイズを叩く、と思いきや。 そのまま後ろ手に鞭を放り投げた。 「なんてな、冗談さ、君相手にそんなことしたら俺は世界中の男どもに命を狙われるだろうな。五年後の楽しみとして取っておくよ」 エツィオは、笑いながら肩を竦める。 そして腰を抜かし、床にへたり込むルイズに手を差し伸べた。 「なんだよ、この程度で怯えるだなんて、可愛いところもあるじゃないか」 ルイズはエツィオの手を取り立ち上がる。 そしてぎゅっと、手を握り締め、目に涙をため、上目づかいにエツィオの事を見つめた。 今までの態度から一変してしおらしくなったルイズに少々驚いていると、 ルイズがぼそぼそと呟き始めた。 「あ、あの……その……エツィオ……」 「ん? 何だい?」 僅かに自分の名前を呼ぶのが聞こえる、 エツィオは怪訝に思いつつもルイズに近寄った。 それがいけなかった、逃がすまいと掴まれた手に力がこもりエツィオの動きを封じる。 「死ねッ!!」 ルイズの右足が疾風のように動き、エツィオの股間を蹴りあげた。 「ぐっ……ぬぁ……」 エツィオは地面に膝をつき悶絶する。 衛兵達を相手にしているときも何度かもらった事はあるが、 これほどまでに見事な金的は食らったことがない……。 やはり男性同士、どこかで遠慮というものがあったのだろう……。 「ふ、ふふふ、つ、捕まえたわよ……この馬鹿犬……!」 ルイズは不気味に笑うと、床に落ちた鞭を拾い上げる。 もちろん手は握ったままだ。指が食い込んでいる、何があっても逃がすつもりは無いらしい。 「なっ……お、おい、やめろ……」 「ごごご、ご主人様をこんなに、かかか、からかうなんて、これは一から躾けないとだめなようね……!」 息も絶え絶えなエツィオを見下ろし、ルイズが鞭を振り上げる。 それを見たエツィオの顔が青くなった。 「お……落ち着け……! は、話せばわかるって!」 「問答無用よこの馬鹿犬ーーーーッ!!」 夜はまだ始まったばかり、ルイズのお仕置きは空が明るむまで続き……、 さらにその後、朝までヴァリエール家とツェルプストー家の長年の因縁についての講義が続いたという。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/rekiryuu/pages/42.html
珍しい台詞を集めています。自分で探したいという人は見ないでください。 ここに載っていないものを見つけたら加筆を、間違ってたら訂正をお願いします。 智将 「ふっ、後退か。なるほど。」…命令で後退するとき 「閣下、退くことも勇気ですぞ」…「俺は臆病者にはなれん」に対してたまに発せられる。 「フフ、前進か。いくぞ!」…追撃命令が出されたとき 「相手の○○は優秀な奴です 部下の統率も取れている」…敵将の能力値が高かったりすると発せられる、両参謀が発する事も。 「相手の○○は優秀な奴だ。しかし部下までが優秀とは限らない。そこが狙い目だ」敵指揮官の能力値が高いが、他が低いと発せられる。 「よし、いったん退いて敵を誘え!」…知力の高い武将は戦闘の途中でも擬退を行うらしく、そのときに使われる。その後はいつもの「お客様ご案内」の流れに。 「なに?援軍だと?笑止な・・・・」…敵の援軍が到着したとき 「擬退は失敗か・・・仕方ない前進だ!」…囮部隊が全滅し、代わりに出撃できる武将が残っていないとき 「お待ちどうさま」…伏兵として出現したとき 猛将 「後ろがないなら前を突き破れっ、うぉぉぉ」…猛将が退路を絶たれたとき 「よだれが出るぜ」…伏兵として出現したとき 「ほえ面かくなよ!」…挑発に乗ったとき 「周り込むぞ!ついて来い!」…敵の背後に回り込もうとするとき その他レアな台詞 「なんとしても城を救うぞ」…城を救援に行ったとき。台詞自体は珍しくないが、状況が珍しい。 「あれで助けに来たつもりか?」…城の救援戦で「あんな寡兵でどうしようというのだ」と同じように使われる。 「必死で助けに来たというわけだ」…城の救援戦で敵が自軍より多いときに使われる 。 「くっ、醜態を晒してしまった・・・」…偽退却失敗時。単純に退却が成功したときも? 「これは、これは、いらっしゃい。」…伏兵が自分方にいて、敵が突っ込んできたとき。 「これは、これは、ようこそ。」…自軍の陽動に敵が乗ってきたとき。 「お客様ご案内!」…同じく自軍の陽動に敵が乗ってきたとき。 「敵の兵力は2万といったところか」「いや2万はいるでしょう」言い換える必要が無い。知力が僅かに参謀の方が上のときに起きる可能性があると思われる。 「敵の兵力は-8千といったところか」 「ばかなっ!何のまねだ○○!」…味方が裏切ったとき。 「相手は○○だ!殺せば大金が手に入るぞ!」…味方を裏切るとき。 「戦いの前に・・・。みんな、よく、ここまで付いてきてくれた。礼を言う・・・。」「何をおっしゃいます。私は最後の最後までお供をします。そうだろう、みんな!」…領土が残り一つで攻め込まれたときに、人望の高い君主が陣頭に立つと君主と参謀が言う。ちなみにその後全軍の士気が5~10上がる。 「もはや、これまで・・・」高齢、君主、異名持ち(または単に高い名声持ち)、君主以外の自軍武将が既に全滅、のうちいくつか(あるいは全部)を満たした状態で全滅するとき(おそらく能力値は不問)。全滅時のセリフ故に一瞬しか見られないので見逃さないように注意
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8054.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― 翌朝……。 トリステイン魔法学院では、昨夜からの蜂の巣をつついた騒ぎが続いていた。 何せ、秘宝である『真理の書』が盗まれたのである。 それも、巨大なゴーレムが壁を破壊するといった大胆な方法で。 宝物庫には、学院中の教師が集まり、壁にあいた大きな穴を見て、呆然と口をあけていた。 壁には『真理の書、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と大きく犯行声明が刻まれている。 それを見た教師たちは口々に好き勝手なことを喚き始めた。 「土くれのフーケ! 貴族たちの財宝を荒らしまわっているという盗賊か! 魔法学院にまで手を出しおって! 随分とナメられたもんじゃないか!」 「衛兵はいったい何をしていたんだね?」 「衛兵などあてにならん! 所詮は平民ではないか! それより当直の貴族は誰だったんだね!」 ミセス・シュヴルーズは震えあがった。昨晩の当直は、自分である。 まさか魔法学院を襲う盗賊がいるなどとは夢にも思わずに、当直をサボり、自室で眠ってしまっていたのだ。 本来ならば、夜通し門の詰め所に待機するのが決まりであった。 「ミセス・シュヴルーズ! 当直はあなたではありませんか!」 一人の教師が早速ミセス・シュヴルーズを追及し始めた。 オスマン氏が来る前に責任の所在を明らかにしておこうと言う魂胆であろう。 シュヴルーズはボロボロと泣き出してしまった。 「も、申し訳ありません……」 「泣いてもお宝は戻ってこないのですぞ! それともあなた、『真理の書』を弁償できるのですかな!」 「わたくし、家を建てたばかりで……」 シュヴルーズはよよよ、と床に崩れ落ちた。そこに、オスマンが現れた。 「これこれ、女性を苛めるものではない。……遅れて済まんな諸君、少し拾いものをしておっての」 「しかしですな! オールド・オスマン! ミセス・シュヴルーズは当直にも関わらず、呑気に自室で寝ていたのですぞ! 責任は彼女にあります!」 オスマン氏は長い口ひげをこすりながら、口からつばを飛ばして興奮するその教師を見つめた。 「ミスタ……、なんだっけ?」 「ギトーです! お忘れですか!」 「そうそう、ギトー君。君は怒りっぽくていかん。さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるのかな?」 オスマン氏が辺りを見回すと、教師たちはお互い、顔を見合わせると恥ずかしそうに顔を伏せた。名乗り出るものはいなかった。 「ま、これが現実じゃ。責任があるとすれば、我々全員じゃ。この中の誰もが……無論私も含めてじゃが、 まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、今までなかったし、夢にも思っていなかった。なにせ、ここにいるのは、ほとんどが名のあるメイジじゃからな。 誰が好き好んで、虎穴に入るかっちゅう話じゃ。……しかし、それが間違いじゃった」 オスマン氏は、壁にぽっかりあいた穴を見つめた。 「さて、このとおり、賊は大胆にも忍び込み、『真理の書』を奪おうとしてきおった。 つまり、我々は油断していたのじゃ。責任があるとすれば、我ら全員にあるといわねばなるまい」 シュヴルーズは感激してオスマンに抱きついた。 「おお、オールド・オスマン、あなたの慈悲のお心に感謝いたします。わたくしはこれからあなたを父と呼ぶことにいたします!」 オスマン氏はそんなシュヴルーズのお尻を撫でながら言った。 「ええのじゃ。ええのよ。ミセス……」 「わたくしのお尻でよかったら! そりゃもう! いくらでも! はい!」 オスマン氏はこほん、と咳をした。場を和ませるつもりで尻を撫でたのだが、誰も突っ込もうとしない。皆一様に真剣な目でオスマン氏の言葉を待っていた。 「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」 気を取り直したオスマン氏が尋ねた。 「この三人です」 コルベールがさっと進み出て、自分の後ろに控える三人を指さした。 ルイズにキュルケにタバサの三人である、もちろんエツィオも傍にいたが、使い魔なので数には入っていないようだった。 「ほう……君か」 オスマン氏は、どこか感慨深げにエツィオを見つめた。 エツィオはなぜそのような視線を向けられるのか、疑問に感じつつも、すぐに腰を折り一礼した。 「初めてお目にかかります、オスマン殿……失礼ですが、私がなにか?」 「エツィオ! あんたは下がってなさい!」 ルイズはそんなエツィオを叱りつけ下がらせようとした、しかしオスマン氏はそれを手で制し、柔和な笑みを浮かべると彼に話しかけた。 「おぉこれはすまんの、ミス・ヴァリエール。彼が友人に似ていたのでな。君、名は何と?」 「エツィオ・アウディトーレ、以後お見知りおきを」 「なに、そんなにかしこまらなくてもよいぞ、若き大鷲よ。 君とはいずれ話をしてみたいと思っていた所でな、……しかし今はそのような場合ではないのが残念じゃ」 「はあ……」 「では、説明を願えるかの」 オスマン氏が説明を求めると、ルイズが進み出て見たままを述べた。 「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです、肩に乗ってた黒いメイジがこの宝物庫に入って行って。 それを見たわたしの使い魔がゴーレムの上に飛び移って、宝物庫から出てきたフーケを止めようとして……」 「力及ばず、あと一歩のところで取り逃がしてしまいました」 後を引き継ぐようにエツィオが口を開く。 「……それで、その後はどうしたのかね?」 「その後、ゴーレムが動き出して、城壁を越えて歩き出して……最後には崩れて土になっちゃって……。 後には土しか残っていませんでした。肩に乗っていた黒いローブを着たメイジは、影も形もありませんでした」 「ふむ……」 オスマン氏は髭を撫でた。 「後を追おうにも、手掛かりは無しというわけか……」 「面目ない……」 申し訳なさそうにエツィオが呟く。 「いや、よい、メイジではない身でありながら、よくぞフーケを止めようとしてくれた。そのおかげでな」 オスマン氏は、そう言うと、懐から羊皮紙の束を取り出した。 一同の視線がその束に集まった。 「オールド・オスマン、それは?」 「ほっほ、『真理の書』の中身じゃよ、ここに来る途中、中庭に散らばっていたのを回収したものじゃ。全部拾うには少々骨が折れたがの」 それを見たエツィオが小さく「あっ……」と呟く。 そう言えば投げたナイフが賊の持っていた何かに当たり、そこからばらばらと紙片らしきものがこぼれおちていた。 と言うことは、意図的ではないにしろ、秘宝である『真理の書』を破壊してしまったということになる。 「も、申し訳ない! 私の不手際で!」 「よいよい! 見ての通り中身は無事じゃ。むしろフーケの鼻を折ってやったと考えるべきじゃて。 とは言え、残りの断片は、未だ奴の手の中にある。なんとしても取り返したいものじゃな……」 それからオスマン氏は気付いたかのようにコルベールに尋ねた。 「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」 「それがその……、朝から姿が見えませんで」 「この非常時に、どこに行ったのじゃ」 「どこなんでしょう?」 そんな風に噂をしていると、ミス・ロングビルが現れた。 その姿を見たエツィオは少し驚いた様子で彼女を見つめていたが、ややあって口元に笑みを浮かべた。 「(いっ!!!)」 ……そんな彼の様子を見ていたのか、ルイズは踵で思いっきりエツィオの足を踏みつけた。 「ミス・ロングビル! どこに行ってたのですか! 大変ですぞ! 事件ですぞ!」 激痛に足を押え蹲るエツィオをよそに、興奮した調子で、コルベールが捲し立てる、しかし、ミス・ロングビルは落ち着きを払った態度で、オスマン氏に告げた。 「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」 「調査?」 「そうですわ、今朝がた、起きたらこの大騒ぎではないですか、そして宝物庫はこの通り。すぐに壁のフーケのサインを見つけたので。 これが国中の貴族を震え上がらせる大怪盗の仕業と知り、すぐに調査に取り掛かりましたの」 「流石じゃミス・ロングビル、仕事が早いの」 コルベールが慌てた調子で促した。 「で、結果はどうなのですか?」 「はい。フーケの居所がわかりました」 「な、なんですと!」 コルベールが素っ頓狂な声を上げているのを無視して、オスマン氏が尋ねた。 「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル」 「はい。近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。 おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと……」 ルイズは叫んだ。 「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」 オスマン氏は、目を鋭くして、ミス・ロングビルに尋ねた。 「そこは、ここから近いのかね?」 「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」 「すぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」 コルベールが叫んだ。 オスマン氏はその提案に首を振ると、目を見開き怒鳴った、年寄りとは思えぬ迫力であった。 「ばかもの! 王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ! その上、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ! 魔法学院の宝が盗まれた! これは我らの責任じゃ! 当然我らで解決する!」 ロングビルはその言葉に微笑んだ。まるで、その答えを待っていたかのようである。 その時、不意にエツィオが口を開いた。 「ちょっとまってくれ、男……? 失礼ですがミス。フーケは男なのですか?」 「ええ、間違いありませんわ」 エツィオの問いにミス・ロングビルは優雅に頷いた。 その報告を聞き、エツィオは口の端を上げて笑った。 「なるほど……オスマン殿、彼女は随分と優秀な秘書官の様だ……それに美しい」 「ほほっ、そうじゃろう、私の自慢の秘書じゃ、とくにそのお尻のさわり心地は最高……」 オスマン氏はそこまで言うと小さく咳払いをする。 「と、兎も角じゃ、これより捜索隊を編成する! 我と思う者は、杖を掲げよ!」 しかし、誰も杖を掲げようとしない。各々が、困ったように顔を見合すばかりであった。 「おらんのか? おや? どうした! フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」 その言葉の後も、沈黙は続く。その時であった。 「では、私が行きましょう」 一人の人間が手を上げ、すっと前に進み出た。 その人物を見て、宝物庫の中は一時騒然とした。 「エツィオ……! あんた何を……!」 当然の様に名乗りを上げた使い魔を見て、ルイズが驚いたような声を上げた。 エツィオは、まっすぐにオスマン氏を見つめ、口を開いた。 「取り逃がしたのは私の失態、あの時取り押さえていれば、被害は未然に防げた筈です」 ミセス・シュヴルーズが、驚いた声をあげた。 「しかし! 貴方はミス・ヴァリエールの使い魔、それもただの平民ではないですか! ここはメイジである教師達に任せて……」 「何より、私は敵を"見て"います、万一その黒ローブの男がフーケでなかった場合、一目でわかりますので」 そんな彼女を無視し、エツィオは言葉を続ける。 その自信あふれる振る舞いに、ミセス・シュヴルーズは思わず口を噤んでしまう。 オスマン氏は、どこか嬉しそうな笑みを浮かべ、エツィオを見つめた。 「そうか、ならば若き大鷲よ、奪還の任、君に託すとしよう」 「ありがとうございます、オスマン殿。必ずや汚名をそそいで見せましょう」 エツィオが深々と頭を下げた、その時だった。 今まで俯いていたルイズが、すっと杖を顔の前に掲げた。 それを見たエツィオが驚いて顔をあげる。 「ルイズ?」 「わたしも行きます! 使い魔だけを行かせるだなんてできません!」 ルイズはきっと唇を強く結んで言い放った。 エツィオは困ったような表情を浮かべると、諭すように話しかけた。 「なぁ、ルイズ、何も君が行くことはない。ここは俺に任せて……」 「ダメよ! 使い魔であるあんたが行くのに、主人のわたしが学院で待ってるだなんて事できないわ!」 「……危険だ、遊びに行くんじゃないんだぞ。君も見ただろう、あのゴーレムを!」 エツィオがルイズを説得しているのを見て、しぶしぶキュルケも杖を掲げた。 コルベールが驚いた声をあげた。 「ツェルプストー! 君も行くと言うのか!」 キュルケはつまらなそうに言った。 「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」 キュルケが杖を掲げるのを見て、タバサも掲げた。 「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」 キュルケがそう言ったら、タバサは短く答えた。 「心配」 キュルケは感動した面持ちで、タバサを見つめた。 ルイズも唇を噛み締めて、お礼を言った。 「ありがとう……タバサ……」 「参ったな……」 そんな三人の様子を見つめながら、エツィオは心底困ったように呟いた。 こうなってしまっては、彼女らを止めることはできないだろう、無論、オスマン氏が許可しなければ始まらないのだが……。 そう思い、エツィオは望みを託すようにオスマン氏を見やる。 すると、オスマン氏はエツィオの心境を知ってか知らずか、大きく頷いた。 「そうか、では彼女らにも頼むとしよう」 その言葉を聞いて、エツィオはがっくりと肩を落とす。 計画の練り直しだ、エツィオは腕を組むと何やら深く考え込み始めた。 「オールド・オスマン! わたしは反対です! 生徒たちをそんな危険にさらすわけには!」 「では、君が行くかね? ミセス・シュヴルーズ」 「い、いえ……、わたしは体調が優れませんので……」 「彼女たちは敵を見ている、その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」 タバサは返事もせずに、ぼけっと突っ立っている。教師たちは驚いたようにタバサを見つめた。 「本当なの?タバサ」 キュルケも驚いている。王室から与えられる爵位としては、最下級の『シュヴァリエ』の称号であるが、 タバサの年齢でそれを与えられるのが驚きである。 男爵や子爵の爵位なら、領地を買うことで手に入れることも可能ではあるが、シュヴァリエだけは違う。 純粋に業績に対して与えられる爵位……、実力の称号なのだ。 宝物庫の中がざわめいた。 オスマン氏は、それからキュルケを見つめた。 「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」 その言葉に、キュルケは得意げに赤い髪をかきあげた。 それからルイズが自分の番だとばかりに可愛らしく胸を張った。 オスマン氏は困ってしまった。褒めるところがなかなか見つからなかった。 こほん、と咳をすると、オスマン氏は目をそらした。 「その……ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の息女で、その、うむ、なんだ……、 将来有望なメイジと聞いているが? しかもその使い魔は!」 それからエツィオを熱っぽい目で見つめた。 「平民ながら、あのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという噂だが……。 見よ、この男を、平民の身でありながら、この場にいる誰よりも貴族らしいと思わんかね?」 オスマン氏は思った、彼が、本当に『ガンダールヴ』であり……、 そして何より『アサシン』であるならば……。土くれのフーケに、遅れを取ることはあるまい。 コルベールが興奮した調子で、後を引き取った。 「そうですぞ! なにせ、彼はガンダー……」 オスマン氏は慌ててコルベールの口を押さえた。 「むぐ! はぁ、いえ、なんでもありません! はい!」 教師たちはすっかり黙ってしまった。オスマン氏は、威厳のある声で言った。 「この三人に勝てると思う者がいるのなら、前に一歩出たまえ」 誰もいなかった。オスマン氏は、エツィオを含む四人に向き合った。 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する。……君達に安全と平和があらんことを」 ルイズとキュルケとタバサは、真顔になって直立すると「杖にかけて!」と同時に唱和した。 それからスカートの裾をつまみ、恭しく礼をする。それに合わせ、エツィオも優雅に一礼した。 そして、顔をあげたエツィオは一歩前に進み出て、まるで周囲に聞かせるように口をひらいた。 「オスマン殿、その『真理の書』ですが、念のため全ての断片を持って行くことを提案します」 「ほう、何故かね?」 「フーケをおびき出すエサになるかもしれません、ご安心を、私が責任を持ってお預かりします」 「ふむ……そうじゃな、では君に預けよう」 「感謝いたします……それと、もう一つ」 『真理の書』の断片を受け取ったエツィオは、オスマン氏の耳元でなにやら小声で囁く。 オスマン氏は少々首を傾げはしたものの、ややあって頷いた。 「ふむ、よかろう、では馬車を用意する。それで向かうのじゃ。魔法は目的地に着くまで温存したまえ。ミス・ロングビル!」 「はい。オールド・オスマン」 「彼女たちを手伝ってやってくれ」 ミス・ロングビルは頭を下げた。 「もとよりそのつもりですわ」 四人はミス・ロングビルを案内役に早速出発した。 馬車といっても、屋根ナシの荷車のような馬車であった。 襲われたときに、すぐに外に飛び出せるほうが良いということで、このような馬車にしたのである。 最初、エツィオが御者を買って出たが、万一の時に対処できるようにと、ロングビルが御者をすることになった。 キュルケが黙々と手綱を握るロングビルに話しかけた。 「ミス・ロングビル……手綱引きなんて、付き人にやらせればいいじゃないですか」 ミス・ロングビルは、にっこりと笑った。 「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」 キュルケはきょとんとした。 「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」 「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」 「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」 ロングビルは優しい微笑みを浮かべた。それは言いたくないのだろう。 「いいじゃないの。教えてくださいな」 キュルケは興味津々といった顔で、御者台に座ったロングビルににじり寄る。 ルイズがキュルケの肩を掴んだ。キュルケが振り返ると、ルイズを睨みつけた。 「なによ、ヴァリエール」 「よしなさいよ。昔のことを、根掘り葉掘り聞くなんて」 以前、エツィオにしてしまった事を思い出したのか、ルイズが険しい表情で言った。 キュルケはふんと呟いて、荷台の柵に寄りかかって頭の後ろで腕を組んだ。 「暇だからお喋りしようと思っただけじゃないの」 「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを、無理やり聞き出そうとするのはトリステインじゃ恥ずべきことなのよ」 二人は再び火花を散らし始めた。タバサは我関せずと、相変わらず読書にふけっている。 そんな中、荷台に座っていたエツィオは、ひらりと御者台に乗り移ると、ミス・ロングビルの隣に腰を下ろした。 「やぁ初めまして、ミス・ロングビル」 「え、えぇ、は、初めまして、ミスタ……」 「エツィオ、そうお呼びください、ミスタはいらない」 「は、はぁ」 突然隣に座り、語りかけてきたエツィオに面食らいながらもロングビルは答えた。 「ミス、失礼だが、少しよろしいかな?」 「な、なにかご用ですか……?」 エツィオは少しの間ロングビルを見つめていたが、ややあって彼女から視線を外すと悩ましげにため息をついた。 「あぁ……やはりダメだ……!」 「な、何がダメなのでしょう?」 「実は……宝物庫で、初めてお会いした時、貴方こそが世に名を響かせる大怪盗ではないかと疑ってしまいました、いや……今も疑っています」 エツィオのその言葉にミス・ロングビルがビクンッ! と反応し、驚いたようにエツィオを見つめた。 ロングビルはなぜか恐る恐ると言った様子でエツィオに尋ねた。 「なっ!? ななな、なんで……でしょうか……?」 「貴方を一目見たその瞬間、『土くれ』のフーケが財宝を盗み出すよりも鮮やかに、俺の心は貴方に盗まれていた。 どうすれば取り返せるのか? 今もその方法を考えているのですが……、どうしたものか、こうして貴方を前にすると、何も考えられなくな――ぐぇっ!?」 突然頭頂部に襲いかかった強烈な衝撃に、エツィオの口説き文句はそこで中断させられた。 何事かと頭を抱え、涙目になりながら後ろを振り向くと、デルフリンガーを持ったルイズとキュルケが鬼の形相で立っていた。 「「エツィオ!!」」 どうやらデルフリンガーで頭を殴られたらしい。 鞘に収まっていたため頭をカチ割られずに済んだようだ。 堪らずエツィオは抗議の声をあげた。 「いってぇ~っ……! おい! 何をする!」 「それはこっちのセリフよ! なにミス・ロングビルのこと口説いてんのよ!」 「なにって、ちょっとお話してただけじゃないか! ……ははぁ、さては嫉妬だな? やっと俺のことを男として見てくれるようになったのか」 「そ、そ、そ、そんなんじゃないわよこの馬鹿犬がぁ~~~!!!」 「わっ! お、おい! あぶないからやめろ! そんなところで振りまわすな!」 「そうよエツィオ! あたしがいるっていうのに! ひどすぎるわ!」 ルイズがデルフリンガーを振りまわし、キュルケまでエツィオに掴みかかる。 修羅場と化した荷台の上で、タバサは我関せずと一人本のページをめくっていた。 そうこうしているうちに、馬車は深い森へと入っていく。 鬱蒼とした森が恐怖を煽る。昼間だと言うのに薄暗く、気味が悪い。 「ここから先は、徒歩で行きましょう」 ミス・ロングビルがそう言って、全員が馬車から降りた。 森を通る道から、小道が続いている。 「なんか、暗くて怖いわ……、いやだ……」 キュルケがエツィオの腕に手を回してきた。 「大丈夫さ、俺が君達を守ってやる、そのために俺はいるんだからな」 「あんた、さっきの今なのに、よくそんな台詞が吐けるわね……」 しれっと言い放ったエツィオを見て、ルイズが呆れ切った表情で呟く。 そしてエツィオの背中を見て、首を傾げる。 ……あれ? こいつ、剣を持ってない。 「エツィオ! あんたあのボロ剣どうしたの!」 「え? あっ! しまった! 馬車に忘れた!」 エツィオが思い出したかのように言うと頭を抱える。 するとキュルケがエツィオの腰に下がっている豪奢なレイピアを指さした。 「あら、エツィオ、あなた、腰にあたしの剣を差してくれてるじゃない、それを使いなさいな」 「だめよ! 決闘に勝ったのはわたしよ! エツィオ! すぐに取ってきなさい!」 「わかった、すぐに追いつくから、先に行っててくれ」 エツィオはそう言うと、不意に後ろを歩いていたタバサに話しかけた。 「タバサ、ちょっといいか? これを預かってくれないか」 エツィオは懐から、オスマン氏から預かった『真理の書』の断片を取り出すと、全てタバサに手渡した。 なぜ自分に手渡されるのかわかりかねているのか、タバサは首を傾げた。 「どうして?」 するとエツィオは誰にも聞こえないように何やらタバサに耳打ちをし始めた。 それを聞いたタバサは驚いたようにエツィオに聞き返した。 「成功する?」 「そのために君に頼むんだ」 タバサはしばらくエツィオをじっと見つめていたが、 いつにない真面目な表情の彼に、タバサは頷いた。 「頼んだぞ」 エツィオはそう言うと、タバサの肩を叩き、振りかえった。 「さて、それじゃあ大急ぎで取ってくるよ」 そう言い残すと、エツィオは踵を返し、来た道を大急ぎで走り去って行った。 「ったく! あの馬鹿使い魔! 傭兵のくせに剣を忘れるなんて何考えてんのよ!」 ルイズがブチブチと文句を言いながら地面を踏みつける。 するとロングビルが不意に口を開いた。 「あ、あの、彼はすぐに戻るとおっしゃっていたので、とりあえず先に進みませんか? 『真理の書』の断片もあることですし……」 特に反対する理由もない、ルイズ達は仕方ないとばかりに頷くと、森の奥へと歩を進めていった。 やがて、エツィオを除いた一行は、開けた場所に出た。森の中の空き地と言った風情である。およそ、魔法学院の中庭ぐらいの広さだ。 真ん中に、確かに廃屋があった。元は木こり小屋だったのだろうか。朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板が外れた物置が隣に並んでいる。 四人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したまま廃屋を見つめた。 「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」 ロングビルが廃屋を指差して言った。人が住んでいる気配はまったくない。 果たしてフーケはあの中にいるのだろうか? ルイズたちは、相談を始めた。とにかく、あの中にいるのなら奇襲が一番である。寝ていてくれたらなおさらである。 タバサはちょこんと地面に正座すると、枝を使って地面に絵を描き、自分で考案した作戦を説明し始めた。 まず、偵察兼囮が小屋のそばに赴き、中の様子を確認する。 そして中にフーケがいれば、これを挑発し、外に出す。 小屋の中には、ゴーレムを作り出すほどの土はない。外に出ない限り、得意の土ゴーレムは使えないのであった。 そして、フーケが外に出たところを、魔法で一気に攻撃する。土ゴーレムを作り出す暇を与えずに、集中砲火でフーケを沈めるのだ。 「それで、偵察兼囮役は誰がやるの?」 ルイズが尋ねた、タバサは自分を指すと、すぐに立ち上がった。 杖を手に、物音を立てぬように素早く小屋の傍まで近づいた。 窓に近づき、慎重に中を覗きこむ。小屋の中は、一部屋しかないようだった。部屋の真ん中に埃の積もったテーブルと、転がった椅子が見えた。 崩れた暖炉も見える。テーブルの上には、酒瓶が転がっていた。 そして、部屋の隅には、薪が積み上げられている。やはり、炭焼き小屋だったらしい。 薪の隣にはチェストがあった。木でできた、大きい箱である。そこまで見て、中に人の気配はない。 箱も人が入るには小さすぎるし、隠れられるような場所も見えなかった。 念のため、小屋に向けて杖を振り、ワナがないか確認するも、特に異常は見られなかった。 タバサは頭の上で腕を交差させる。誰もいなかった時のサインである。 隠れていた全員が、恐る恐る近寄ってきた。 「誰もいない」 タバサはそれだけ言うと、ドアを開け、中に入っていく。 キュルケが後に続き、ルイズは見張りに立つために、小屋の外に残った。 ミス・ロングビルは辺りを偵察してきます、と言って森の中に消えた。 小屋に入ったタバサとキュルケは何か手掛かりがないかを調べ始めた。 そしてタバサがチェストの中から……。なんと『真理の書』の断片を見つけ出した。 「真理の書」 タバサはエツィオから受け取った真理の書の断片を取り出し、見比べる。 筆跡、書かれている文字、どれもが一致した。間違いない、フーケに奪われた断片であった。。 「あっけないわね!」 キュルケが叫んだ。 タバサは、窓を開け顔を出すと、空へ向け、ピィーっと口笛を吹いた。 その時、外で見張りをしていたルイズの悲鳴が聞こえた。 「きゃあああああああ!」 「ルイズ! どうしたの!」 一斉にドアを振り向いたとき……。 ばこぉーんと景気のいい音を立てて小屋の屋根が吹っ飛んだ。 屋根がなくなったおかげで、空がよく見える。 そして青空をバックに、巨大なフーケの土ゴーレムの姿があった。 「ゴーレム!」 「外へ」 キュルケが叫んだ。このことを予測していたのか、タバサが即座に指示をだし、二人はルイズのいる小屋の外へ飛び出した。 その瞬間、タバサのウィンドドラゴンが滑り込むように滑空してきた。 タバサとキュルケ、そしてルイズを両足でがっしりと掴むと、一気にゴーレムの攻撃が届かない上空へと飛びあがった。 「た、助かったわ、タバサ……」 キュルケが安堵したように呟いた。 タバサとキュルケは『フライ』を唱え、ドラゴンの背へ降り立ち、最後に『レビテーション』でルイズを移動させた。 下ではゴーレムが上空へと逃げたルイズ達をどうやって叩き落すべきか、まるで考え込むように首を傾げている。 「あ、ありがと……タバサ」 「ここまでは予定通り」 ルイズが礼を言うと、タバサが涼しい表情で呟いた。 「予定通り……て、どういうことなの?」 「ゴーレムが現れたら全員を上空へ避難させるように言われてる、ここなら攻撃は届かない」 「言われてる? 誰に?」 「あなたの使い魔に」 どういうことかわからない、と言った表情のルイズにタバサは淡々と答える。 その時、ルイズはエツィオと森の中で別れる際、エツィオがタバサに耳打ちしていたことを思い出した。 「そう言えば……、あの時、あいつはなんて言ってたの?」 「……そろそろ終わるはず」 タバサはルイズの質問に答えずに、下にいる巨大なゴーレムをじっと見つめる。 それにつられてルイズとキュルケがゴーレムを覗きこんだ、その時。 上空のドラゴンへ攻撃を加えるべく、腕を振りまわしていたゴーレムが、突然ぴたりと動かなくなった。 そして、どういうわけか滝の様に頭から崩れ落ち……。ただの土の塊へと還っていく。 この前と同じように後には土の小山が残された。 「終わったみたい」 唖然としてその様子を見つめていたルイズとキュルケをよそに、タバサはぽつりと呟くと、ドラゴンに地面に降りるよう指示を出した。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/oper/pages/1776.html
対訳 ActⅠ ActⅡ ActⅢ Blogs on エツィオ テンプレ改修《ジェルマニコ》《ロタリオ》《エツィオ》《アタランタ》《デイダミア》 ヘンデル/グルック 《エツィオ》 エツィオとは エツィオの56%は不思議で出来ています。エツィオの25%は鉛で出来ています。エツィオの9%は海水で出来ています。エツィオの4%は勢いで出来ています。エツィオの4%はやましさで出来ています。エツィオの2%は玉露で出来ています。
https://w.atwiki.jp/ma1kojinyou/pages/13.html
Lobiで挑発が流行ってるらしいので 5c6cに65%挑発を絶対に投げることを中心に組んだデッキ。 5cの最大ダメージは物理19000*4、魔法15000+4000(防デバフ分) = 95000 65%挑発ならHP33250あれば無軽減でも耐えられる。 同じく6cの最大ダメージは物理22000*4 + 魔法(12000+4000) + (12000+4000+4000) = 124000 …は流石に無理なので部位バリア割りきってもらうことを前提に 物理22000*2 + 魔法(12000+4000) + (12000+4000+4000) = 80000 HP28000あれば無軽減で耐え切れる。 65%挑発2枚+2c4枚+1c4枚(うち2枚はドロー付き)で無事故に。光6枚なら7cチェイン事故も無い。 盗賊はデバフを1枚も入れていないことを前提に 4c盗賊25%事故を防ぐために16000*2 - (盗賊のHP) 分の軽減が必要 最悪のパターンは初手で挑発とアスカ以外の1cが揃った時で 1cデバフ+ヴァレ + 猫技+アスカ+1cデバフ=軽減値6122 盗賊のHPが26kあれば絶対に守り切れる。 ダメージ軽減があまり期待できないが5cの回復ではまず事故はない。 5cまでの回復の切り方次第では6cで28k回復できずに富豪が落ちる。